カリヤスの景色

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岐阜県の山間にあるこの小さな町の人口は、 役場のHPによればおよそ1万5千人で、その周囲は「町」ではなく「村」で囲まれていた。 イメージとは恐ろしいもので、整備されていない道路や、ビルと呼べる建物はないのだろうと感じるキーワードがいくつかある。実際のところは車もそこそこに行き交っているし、地方銀行や観光ホテルなどの背の高い建物はぽつぽつ見られる。 「結構変わったみたいね」 1ヶ月前にこの町に越してきたその日、深い緑の中を不釣り合いな高速道路を走ってきた車の中で、トンネルを抜けた先に突然広がったそのイメージより少しだけ上のクオリティに母親は驚いた声をあげた。 助手席で眠たい目をこすりながら、ナツはこの時もまたどうでもいいとこぼした。 祖母が亡くなって5年。 ただ流れていった時間の中で、ナツに起きた大きな変化は確実に環境を変えていった。両親が離婚したのだ。 無口だった父親との別れは悲しいものでは無かったが、ビルに囲まれ緑と言えば公園のそれしかなかったナツにとっては、この小さな町に引っ越してきたことが何より悲しく、虚しかった。
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