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三日三晩、散々吹き荒れた地吹雪はその日の昼前にようやく収まり、窓に合金のブラインドが降ろされた暗い室内で息を潜め耐えていた痩身の少年は、数日ぶりの静寂にほっと胸を撫で下ろした。
標高はさほど無いものの、北からの冷たい季節風をまともに受ける山麓の斜面に設置されたこの二十畳ほどしかない小屋は、巨石と雪に囲まれた周囲の景色と同化すべく粗い目のコンクリートを固めただけの簡素な造りであった。元々5年程前までこの土地を治めていた陸軍国境警備隊が用いていた観測小屋であったのだが、軍は一層の気候の悪化を受け山麓を放棄、以降、国境を接する隣国の偵察部隊ですら侵入できないほどの荒天に晒されることとなり、いずれの国家の主権も及ばない空白地帯と化していた。
少年は、窓のすぐ隣の小さなレバーを下ろし、ブラインドの角度を調節する。強力なモーターの回転と共に、凍りついたブラインドの羽根はバキバキと音を立て、窓枠の氷を砕きつつ僅かに角度を浅くする。その隙間から零れてきた薄暗い日光は、しかし室内を照らすためには充分な明るさを持っていた。
コーヒーを飲むことにした。部屋の隅に山積みにされた缶詰めやら調味料やらの山の中からインスタントコーヒーの瓶を取りだし、空いたカップに適当な量の粉を出す。丸太を削っただけの簡素な机には瞬間湯沸かし機が設置されていた。彼はポリタンクに溜まった蒸留水をそこに注ぎ込むと沸騰の合図を待たずにそれを停止させ、カップに移す。大量の砂糖を投入し、いざそれを飲まんと窓際まで移動したその時、少年の背後、小屋の入口である分厚い引き戸が、ごりごりと氷を削りながら徐に開いた。
そこには、白い山岳部隊用の耐寒戦闘装備に身を包んだ人物が立っていた。
「…お帰り。」
少年が呟いた。
「遅かった。」
「ブリザードが酷くて、小屋のすぐ外で穴掘って待避してたんだ、すまん。」
雪にまみれたパンパンのバックパックを床に下ろしつつ、その人物は言った。
「食糧は確保できた。いつも通り保存食だが、こんなもんでも今はありがたい。」
「基地のことは別にいい。それより、遺跡はどうだった?」
「それだよ。」
少年はコーヒーをすすり、尋ねる。雪を払い、帰ってきた男は頭の耐寒ヘルメットを外しつつ、それに答えた。
「今回は本当に凄いものを見つけた。明日すぐに再調査する、お前も来い。」
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