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通話を切り、私はパーティーのことなどまるで忘れてしまったかのように外に出て愛車のエンジンをかけた
ハンドルを握る私は信号の点滅を眺めつつ再び何かが動き出したような不吉な予感と旧友と再開する心地よさの両方を同時に感じていた。
喫茶店
(ドアの音)
「あはぁ~いらっしゃい~」
「おやっさんか。あんたも変わらないんだな」
ここは狭い通りの片隅にポツリと浮いた小さな個人経営の喫茶店
なんにも変わらないチープで狭い店内と一人っきりで店に立つ、何年たっても見た目の変わらぬおやっさん。十年前と全く同じだ
そうか、あれっきり来ていなかったな。
「あっらぁ~その声はま・さ・か~?」
野太い男の声がする。私はこの声の主を理解している。こんな特徴を持つやつを私は今までの人生の中で一人しか知らない
「次郎、あんたまだそんなことやってたのか?」
「まだって何よぉ~!!オカマは永久に!永遠に!不滅なのよ!この世に愛ある限り、ね!」
オカマの名はジローオカモト。日本人だ。ずっと昔私の中で抱いていた繊細で温厚な和の性格のサムライジャパニーズ像を色んな意味でぶち壊しにしてくれたのがこの男だ
いや、オカマだ。
暑っ苦しくてめんどくさいが決して悪いやつではない。
「くっはは!じろちゃんは昔っからこんなだもんな~全くかわんねーぜ!!」
「うるさいわねデイビー!あとで覚えておきなさいよね~!!んぅぅぅ~~~~!」
店内奥で大爆笑しながらふんぞり返ってこちらを見ている金髪オールバックも実に見慣れた顔だ。いや、少しシワが増えたかな
こいつはデイビット。私と同じ米国出身の元軍人だ。ムードメーカーでいつも明るく、こいつのペースに私は何度も助けられた。
「みなさん10年たっても賑やかですね。この空間は実に落ち着きます」
静かにコーヒーをすすりつつこちらを眺め微笑んでいる小柄で礼儀正しいアジア人、彼の名はリー。チャイニーズだ。
この中で最も常識人、逆に言えばこの場にいる連中は大抵どこか頭のネジが飛んでいるということだが・・・
「リーくん、久し振りだね。元気にしてたかい?」
「はい、ポールさんもお元気そうで何よりです。」
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