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「司くん。待ちくたびれたわ」
窓から差す橙の光に照らされて、彼女は座っていた。本に目を落としたまま、微動だにしない。
「電気、つけましょうか」
「結構よ」
素っ気ない返しに、僕は目を伏せた。視線は絡まず、声だけが空間に木霊する。
「前もこうして話したわね」
「そう、ですね」
「君が告白してくれて、私が断った」
「……あれは、僕が貴女を救えなかったから」
夕暮れの空間、2人きりの時間。時間も場所も変わらない。あの日と違うのは、僕らだけ。
「……気づけなかったのよ、私は。時間をかけてしか、見つけられなかった」
「……」
「君は私を救ってくれた。もう遅いのはわかってるわ」
そう言って、唐突に顔を上げる。夕陽にも似た橙の瞳が、僕を見つめていた。
「だけど」
彼女は柔らかく微笑んで。それは橙の中に溶け込んでしまって。
哀しいほどに澄んだ声だけが残った。
「大好きよ、司くん」
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