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「ふざけんなよ」
静かに店内に響いた女性の声に、全員の視線が集中した。そこには声の主であろう席から立ち上がった女性と、その迫力に気圧される男性。見たところ、両者共高校の制服を着ていて、今年十八になる私より少しだけ若いように思う。
女性の方が目に涙を浮かべているのが伺えるあたり、
「みんな一番って馬鹿じゃないの?世の中の女の子は、あんたみたいな一人の男に愛されたいなんて一ミリも思ってない」
どう見ても修羅場だ。今の言葉から察するに、相手は相当な浮気者のようだ。
すると、さっきまで気圧されていた、はずだった男がテーブルに手をつき立ち上がった。逆ギレに近い反論が繰り広げられるものだと誰もが思った。
「思ってないのはいいんだよ。でも俺たち男には関係ない。素敵な女性がこの世界にはたくさんいるのに、それを愛さないなんて最低な選択肢があっていいのか!?」
どうやら、コントか何かが始まってしまったようだ。しかも、男である彼が身も蓋もない偏見を語り始めた。彼の言葉を鵜呑みにして、男性というのはそういう思考を持っているのだと納得するような人もいない訳だが。見ている側は面白いものとして見ていられるが、面と向かって言われている彼女の事を考えると、周囲の視線の痛さはかなりのものだろう。
「いや、そんな事があっていい訳が無いだろ!?お前だって、それはそれは可愛い俺のコレクションなんだよ。一人じゃ物足りないからたくさんの人を愛したいんだ」
誰がどう聞いてもラブコメに出てくる馬鹿要員の台詞だ。ただ、この場にいる誰もが馬鹿馬鹿しいと思ったであろう台詞を、私だけは、何故か真剣な言葉として受け取ってしまった。
どうかしている。
彼の言葉を真剣に受け取った時点で、自分がおかしいというのに気付かない訳が無かった。
席を立った私は、口論を続ける男女にどんどん近付いていく。ざわめきが大きくなっているのはちゃんと聞こえていた。視線だって、口論をする二人へのものより、私へのものの方が鋭いのが感じられる。誰もが私を、修羅場の恋人らの仲裁役に買って出た物好きな女だと思っただろう。だが、私のしようとしていた事は、物好きの度を遥かに超えていた。
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