エピローグ

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5-1-107    エピローグ  その日の仕事を終えたイグノトルは、ティオが干した洗濯ものを取りこみ、無造作にベッドへ投げ、座りこむ。  書棚の隙間に、気づいた。  医学書だらけの書棚に、ティオは絵本を置いていた。  なぜ、それだけを抜きとり、出ていったのだろう。  ベッドに倒れると、まだティオの赤斑から香る、甘い匂いが残っていた。 「ティオ・ノ……」  考えていた名前を、呼びそうになる。 「よかったんじゃないか、これで。私は……望んでいたんだから」  あの子を、手放すことを。  出て行くなら、絵本と同じように、この心から何も残さず行ってくれればいいのに。  イグノトルは、ふらりと書棚に近づき、隙間に手をいれた。 「ふ、う……っ」  あの子が、いない。  もう誰かとの幸せのために、歩きはじめた。  もう捜しては……いけない。 「ティオ……」  イグノトルは隙間に手をかけたまま、その場に崩れおちた。 ―おわり―
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