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ギュッと握りしめた花びらがとてもあたかかくて。
今日の晩ご飯は由姫のお祝いのためか、好物のハンバーグだった。
でも、どうしてだろう。今までにないくらいご飯が喉に通らなくて。こんなこと受験勉強でもならなかったのに、おかしいと思う間もなく、母が
「はじめての学校で緊張したのね。でも、わかるけど、ご飯はちゃんと食べなさいね」
と、やさしく声をかけてくれたから、そうか、ただ緊張していただけなのかと納得してしまった。
――頭のなかは桜の花びらが、思い浮かんでは、離れなかった。
まるで水面に浮かぶ花びらのように、くるり、くるりと。思考が転回していた。
学習机の上においていた桜の花びら。
それをずっとながめていたけれども、この花びらはいつしか枯れてしまうから。だから、しおりにしようと思った。
大切に、とっておきたかった。
なぜ、と自分でも思うけれど。せっかくもらった桜の花びらがうれしかっただけだ。それ以外の意味などないはずなのに。
なのに、先輩の顔が浮かんでいて。――親友に言えないことがまたひとつ増えた、と。
眠りにつく前に、ふと思った。
ちゅんちゅん、と、すずめのさえずりがする。
朝の光がゆるやかに少女を覚醒へと、目覚めさしてゆく。
(……眠たい……起きたくないなあ)
学校に行くのが嫌というわけではなく、ただ、眠たいのだ。
ふとんのなかでうごうごとからだを動かした。でも、しかたがないと思って、からだを起こし、ぐーと伸びをする。
うきうき、どきどきする朝のはじまりでいつもとおなじだというのに、なのに、今日も朝ごはんがあまりとおらなかった。
由姫の好きなふわふわの手づくりの食パンにバターとはちみつをかけて、牛乳たっぷりのカフェオレだというのに。
なぜだろう。あまり食べられないのだ。
「…おかしいわねえ、由姫の好きなハニートーストなのに。朝ごはんはあまり食べれないとしても、全部食べきれないのは本当にめずらしいわあ。大丈夫なの? ほら、もっと食べなさい」
と母は、由姫のお皿にトーストを追加しようとする。
その行為を止めるためと、また母に言われる前に、今度は自分で結論を出した。――うん、制服のはずだ。
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