8人が本棚に入れています
本棚に追加
淡い緑とうすい桜色のタータンチェックのプリーツスカート。深い緑もさりげなく入っているから引き締めはバッチリだし、桜の紋章が入った深い緑色のジャケットもとても愛らしい。中学校でははけなかった紺色のハイソックスもとてもお気に入りだった。
白いシャツに赤いリボンもとても可愛らしいし、何より、ここの制服は学校名と同じく桜を表している。
桜が好きな由姫にとってはすべてすばらしいとしかいいようがなかった。
だから、
「……きっと学校が可愛すぎて、ときめいて喉がとおらないのかなあ」
と軽く冗談めかして言うと、母は吹き出して
「そうね、由希は恋をしているかもしれないわね」
学校に、と。母はあくまでそう言ったけれど、トクンと。胸がうずくのを感じた。
(――恋、かあ)
なぜかとても不思議な響を感じるものだった。
「…恋って甘酸っぱいのかなあ」
こんなふうに、と、フルーツたっぷりのヨーグルトのいちごを口に運びながら言った台詞に母は
「そうよ、きっと甘酸っぱくて、とても幸せなのよ」
これから’憧れ’の高校という場で出会うであろう恋を祝福するかのように、笑った。
グリーンとちいさな花々にたたずむようにして、魅怜が待っていた。
今日も彼女は綺麗だ。彼女が着るとおなじ制服だというのに、雑誌から抜け出たかのようにさまになるのだ。
一目をひく、凛とした鈴の音がなるようなものを彼女はもっていた。
「おはよう、由姫」
行くわよ、とばかりに彼女は由姫から背を向けて去っていく。
早く追いついておいで、と、その背中が語りながらもゆっくりとわざと歩いてくれる親友に苦笑して、由姫は手を振った。
「行ってきまーす!」
「はーい! 行ってらっしゃーい!」
(今日も幸せな一日になるといいなあ)
由姫の願いに答えるかのように、今日も太陽がまぶしかった。
(……うう、ドキドキするよう……)
昨日は魅怜が側にいてくれたから平気だったけれど、今、彼女はだれかに捕まってしまっている。
昨日、見学に行ったところの先輩だろうか。
魅怜は同学年とあまり話さないはずだから、そんな彼女がだれかと長くつき合っているということは先輩しかなかった。
魅怜はそれほどまでに他人というものに興味がないのだ――由姫を除いて。
スッと伸ばされた華奢な手足が小鹿を連想させる先輩と、魅怜は楽しそうに話している。
最初のコメントを投稿しよう!