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人見知りの由姫なはずなのに、その笑顔がうれしくて、また自然と笑ってしまう。
(このひと、いいひとだなあ)
だから、魅怜が入ったのだ。それに、きっと陸上というものに惹かれるのもあっただろう。彼女は球技もふくめた運動がすべて得意だったけれど、どちらかといえば個人ですることのほうが向いていたから
「……本当に、よかった」
にこにこ、と。由姫はうれしくてずっと笑っていた。
本人が決めることだからなかなか言えなかったけれど、魅怜がどこの部活に入らないのを密かにもったいないと思っていたから。
ただ、笑った。
――報告だけだと思っていたのだ。このときまでは。魅怜が、本当に驚愕するようなことを言うまでは
「ありがとう、由姫。由姫がそう言ってくれて、そこまで喜んでくれてうれしいわ。あたしが陸上部に入るのがそんなにうれしいんでしょ?」
ふしぎな問いだった。けれど、魅怜はけっこうこういう質問をする子であったから
「うん? うん、うれしいよ」
? を頭のなかに思い浮かべながらうなずいたけれど、彼女はさらに由姫を驚愕させるような一言を放った。
「なら由姫はマネージャーね! あたしをサポートしてもらうつもりだからよろしく!」
一瞬、呆然とした。びっくりした。いったい何を言っているのかわからなかった。
「……えっ!?」
魅怜は聞こえなかったと思ったのだろう。ふだんから由姫は少しポケッとしているから
「だから、言ってるでしょ! あたしと一緒に陸上部に入ろうって言っているの! 男女別れてるから、女の子だけのサポートでいいし、由姫に、あたしドリンクとかわたしてもらいたかったのよ!」
熱弁をする。
「ええと、その……わたし、ちょっと違う部活を見たいかなって」
由姫のちいさな肩に両手が置かれた。そのままブンブンと肩をゆさぶられた。至近距離でビー玉のような瞳が、あつく燃えていた。
(……困ったな。どうしよう。魅怜っていったん言い出したら聞かないし……かといってわたし部活見学すらしてないし)
いつもの由姫なら流されていただろう。それほどまでにこの親友には敵わないのだ。
でも、今は――高校では少しだけ、ほんの少しでいいからひとりで何かをしてみたかった。魅怜という存在をなくしてもやっていけるものが、場所が欲しかったのかもしれない。
「見る必要もないわよ! いちばん陸上部が最高だったんだから!!」
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