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「…いやあ、でも、わたしは――」
由姫の表情が、とても困っていたのだろう。そんなおりに、ようやく助け舟が出された。
「大丈夫よ。由姫ちゃんが部活を見たあとで。部活は逃げないから、そんなに焦らなくても大丈夫だから」
だから、待ってあげて。
先輩特有の上から言うような感じではまったくなく、とてもやさしい口調だった。まるで懇願されているような。
だから
「……はい。椿(つばき)先輩がそう言うなら」
しかたないですね。
そう、魅怜が頭を下げたのだ。
(…あの魅怜が! おそろしい!)
またもや由姫は呆然としてしまって、それがおもしろかったのか
「ふふっ、ありがとう。でも魅怜ちゃんは陸上部に入ってね。私、待ってるから、お願いね」
にっこりと笑って
「由姫ちゃんもまたね」
さっそうと去っていた。小鹿らしい、とても軽やかな歩みかたで、その背をポケーと見送っていた由姫に
「……ハァ。由姫から一発オッケーだと思ったのに、もう。由姫! さっさと部活を見て、決めてよね! あたし由姫が一緒じゃないとイヤだから!」
魅怜はまたもや熱弁をした。
「う、うん。わかったよ、魅怜」
第一印象からしてクールビューティーを誇る彼女の意外な一面に、クラスメイトたちは驚いているのか、多数の視線を感じた。
錆びついた人形のようにぎこちなく首を動かして視線を返したら、なぜかいっせいにそらされた。
(あ、そうか……ここは教室の前だった……)
――なんだかほかの友達をつくるのは、かなり難しそうだった。
テクテクと廊下を歩く。春風がふいて、とても心地よかった。
(さすが桜花学園……部活を最初に見てこんなにスゴイと思ったのは、はじめてかも……)
どの部活も本当に素晴らしかった。
素人の由姫でもわかるほどに上手な演奏に吹奏楽部など聞きほれてしまったし、美術部など先輩がたの作品を時間を忘れて見惚れてしまった。おまけに家裁部という料理とお菓子と裁縫の活動をするという部を少しのぞいたが、そこすらもプロのお店顔負けだった。素人の域をすべて超えているのだ。
部活動はやるのならばとことん打ち込むべしだが、楽しくを一番に! がモットーな学園の方針であるから、みんな楽しく部活動をしていた。
由姫に楽しくしているのが伝わるほどに、みんな笑顔なのだ。
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