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おなじユニフォームを着た男子たち十数人が、くそうと地べたに座り込んでいる。
それを見て、彼はさらに笑った。
楽しくて、たまらないのだと。楽しいということだけを表現するかのように彼は笑って、白のベースを踏んだ。
その光景を何かのビデオの一瞬かのように、由姫は見ていた。
自分とは違う世界のように、切り抜かれた世界のように。
でも、違ったのだ。彼が、わたしを見て微笑んだ。
大多数のなかから、由姫だけを見つけてくれたのだ。
「……おっ! 由姫ちゃん!」
にっこりと笑って、手を振ってくれた。彼の片耳につけてあるピアスがシャランと揺れた。
ザァーと強く、風がふいた。薄紅色の桜の花びらが舞う。踊り狂う。
由姫の長い黒髪も、周りにいる女の子たちの髪もなびいているのだろう。周りから悲鳴が聞こえた。
でも視界に入らなかった。由姫に映ったのは、彼だけだった。――太陽だけで。世界は薄紅色と太陽の色に染まった。
――この学園には伝説がある。
桜花学園という名の由来は付近が桜に囲まれているからだろう。
気温の変化によって桜が花開く時期が変わるが、たいていは卒業式か、入学式に咲き誇るといわれている。現に、今年もそうだった。
桜花学園の伝説とは校舎が薄紅色に染まったときに想いを告げると、結ばれるということだった――永遠に。
実際、そのままつき合って、結婚にまで至ったカップルが何人もいる。――実は由姫の両親もそうであって、ずっと憧れていたのだ。
でも、由姫はこのとき確信してしまった。自分がどうして、あんなにもうきうきしたのは、ご飯が食べられなかったのは――。
わたしはもう見つけてしまった。恋をしてしまったのだ。
とてもつらくて、悲しくて、なのにこれほどまでの幸せはないという――運命の恋を。
十五歳、桜が舞い踊る日だった。
「由姫ちゃん、部活探してるんだろ? 由姫ちゃんのおすすめの部活、俺、知ってるんだよな」
彼の第一声はそれだった。
由姫が魅了されている間から覚醒させるようにと、大きな声で言って、由姫の手をつかんだのだ。
「……えっ、あの、太陽先輩!」
びっくりした。今日はびっくりすることが本当に多い。
どうしてこうなったのか。というか、由姫はまだ聞きたいことをたずねていないし、彼に素敵でした、とも言っていないのだ。
(う、うええええ!?)
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