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明らかにパニックを起こして前のめりになっている由姫に、太陽は笑って
「じゃあなーお前ら! あとは頼んだ!!」
ブンブンと手を振って、そのまま由姫の手を握りしめて、走った。
「勝ち逃げかよー太陽のバカヤロー!!」
「……てか、オイ、その子、だれよー太陽!!」
待ちなさいよー! という恐ろしいような女性たちの声も聞こえた気がしたし、何がなんだかわからなかったが――とても楽しそうに笑う太陽の顔を見て、由姫も思わず吹き出した。
「……太陽先輩ったらいいんですか!?」
「いいんですよーかまわないっス! ほら、走る!」
間が抜けたような声がして、ますます笑ってしまう。きらきらと光る太陽の上をあおげば、やっぱり今日は空がとても蒼くて、綺麗だと思った。
どのくらい走っただろう。広いグランドをかけて、ふたりは校舎に入っていた。
いつの間にかつないでいた手というか、つながれていた手をさり気なく離して、彼は頭をかいた。照れくさそうに、笑う。
「わりィな。なんか俺、ああいう雰囲気苦手でさ……試合や練習ならともかく、遊びでホームラン打っちゃうと、あいつらの反応がなんか、こう……」
恥ずかしいんだよな、と。彼が身もだえするようしぐさをした。
(……そっかあ、わたしだしに使われたんだ……)
少し、ショックを受けた。けれど彼を見るとやわらかな金の髪がひどく、くしゃくしゃになっている。おまけに制服も派手に着崩れていた。あまりにもひどい先輩の格好に由姫は気うつした気持ちを吹き飛ばすかのように、笑った。
「いいえ、わたしでよければ……」
つながれていた手が離されたことがさびしいし、彼が由姫のことを出しに使ったということがショックだったのも事実だ。
でも、こうやって逃げるためでもなんでも、彼と係わり合いになれることがとてもうれしかった。
だから由姫は首をふる。
「大丈夫です。気にしないでください」
由姫が否定してくれたことにたいして、太陽もホッとしたような笑顔になる。
「……そっか、ありがとな」
ポン、とまた彼は由姫の頭を叩くようにする。
頭の上にあるおおきな手のひらのぬくもりに由姫はドキドキした。頬が、ほんのりと赤く染まった。まるで色鮮やかな桜のように。
「でも、由姫ちゃんに合う部活を見つけたのはマジなんだぜ。なあ、由姫ちゃんって、運動部とか苦手だろ。んで、吹奏楽部とかってのもダメだろ」
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