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ギュッと目を閉じて、祈った。もう、何も視界に入らなくて、見られなかった。
くしゃりと強く、握りしめた番号が書かれている紙がゆがんだ。
でも、
「……見ようぜ、絶対に大丈夫だからさ!」
また、日だまりに押された。
不思議なひとだった。由姫はひと自体が苦手だ。というか、慣れることがどうしてもできない。ひとが嫌いとかではなくて、慣れるのに時間がかかるのだ。
ゆきという名のとおり、冷たくて、いつかとけるような、そんなふうなのだ。由姫は。――さくらと、違って。
でも、やっぱり
「な、がんばろうぜ!」
このひとは太陽みたいだ。あったかくて。背中を押される。
ギュッと閉じていたまぶたを開けると――雪がふっていた。あの日も。ひらひら。と。日だまりに照らされて、ゆきも光り輝いていた。
白に染まった空から、光が差し込んだ。瞬間、ゆきも光り輝けたのだと。まぶしさと、瞳に映った光景に涙した。
「ホントに……よかったあ!」
うれしくて、うれしくて、たまらなかった。自分の番号が映し出されているのが、うれしかった。走馬灯のように流れる今までの自分のがんばりが報われた気がして涙があふれて止まらなかった。
涙をふこうとして、手を、目に当てた。すると、自分がようやく手を握りしめていたのに気づいた。
(…あ、どうしよう、私ったらずっと握ったままで……!)
頬が一瞬にして赤く染まって、大きな、あたたかな手の持ち主を見上げた。このぬくもりに緊張のタガが外れたのか、ますます涙が出そうになる。
さらに思考がパニックになりそうだったけれど、大きな手にふかれたのだ。
不器用に、由姫の手を持ち上げて。
彼が、笑った。
瞬間、すべてが光り輝いていた。わたしも、ゆきも。
――思い出す、思い出す、あふれ出す。ひらひら、と。まるで桜の花びらのように舞う淡雪。太陽に照らされて。とても綺麗で。悲しくなるほどに――綺麗で。
あなたのことが好きで好きで、たまらなかった。どうしようもなく。
それは、雪が触れることのできない太陽に焦がれるかのように。――冷たい雪とは違い、咲き誇る桜を憎むように、わたしは、恋をしていた。
トントン、と。小刻みに真新しいローファーを地面につける。新しい服、新しいもの。新しい生活。が、すべてうれしくて、うきうきと気分がはずんだ。
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