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明るい空だ。蒼が冴えわたっていて、とても綺麗で。思わず見惚れた。
太陽を見ると、あのひとのことを思い出す。ぬくもりと、笑顔を。寝られないほどに考えていた。
(…今日、会えたらいいな……)
「――由姫! ほら、ボーと突っ立ってないで、今日が初登校でしょっ! 魅怜(みれい)ちゃんが迎えにきてくれてるわよ。しゃきっとして行ってきなさい」
バンと背中を叩かれる。
「ゴメン、ゴメン。はーい! 行ってきます!」
背中の痛さと正反対で、母はにっこりと笑顔だ。
由姫のはじめての受験を一番陰ながら応援してくれたのが彼女だから、娘が受かってとてもうれしいのだろう。
合格を報告したときにまるで自分のことのようにはしゃいでいたのを思い出す。
一緒にバンザーイをしたときを思い出して、由姫はふふっと笑った。
こうやって憧れの高校にと毎朝見送ってくれるだろう母のことが、とてもうれしかった。
さわやかな風がふいて、ふわりと、母から洗い立ての洗濯の香りがする。真新しい香りと一緒に、ふと落ち着く香りがして、また微笑んでしまう。
うれしくて、うれしくて、たまらなかった。
「行ってきまーす!」
「はい、行ってらっしゃい!」
ニッコリと元気よく、振り返って、手を振る。母も笑って、見送りだしてくれた。
グリーンで彩られた門の前には、ひとりの少女がいた。
由姫とは正反対のような、色素のうすい髪をもつ美少女が笑みを浮かべ、ゆっくりと片手を上げた。
「おはよう、由姫」
(…相変わらず今日も綺麗だなあ……)
きらきらとべっこう飴のように、薄茶色に光る友達の髪色と瞳を見て、由姫は微笑み、手を振り返した。
「おはよう、魅怜!」
――憧れの高校生が、朝陽とともにはじまった。
学校へと向かって十分くらい歩を進めたころだろうか。
思わず息を呑んでしまうような、散り際の美しさがそこにはあった。
桜色のじゅうたんというのはこういうことなのだろう。
はらはらと舞う、薄紅色の花びらがなんと色鮮やかなことか。
「うわあ、とっても綺麗だねえ」
感嘆のため息をもらせば、魅怜も
「そうね、とても綺麗だわ」
一緒にこの感動を共感するように、おおきく息を吐いた。
(これがホントの桜咲くっていうやつだよね! 幸せだー!)
いよっしゃあ! となぜかこぶしを浮かべて、少女は満面の笑顔でルンルンと桜色の花道を歩いた。
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