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「由姫、頼むからはぐれないでよっ!」
「はーい、ごめんなさーい」
魅怜にしかられたが、それでもやはり流行る気持ちをおさえきれなかった。
はじめての通学路というのもあるが、合格発表を見てから、ずっと寝られないくらい思い浮かべていたあのひとのことが脳裏から離れないせいだ。
「今日、会えたらいいな……」
思わずポツリとつぶやけば
「……また由姫はボーっとして! ほらシャンと歩きなさいよ!」
「きゃっ!」
ベシッと、しっかりものの魅怜に叩かれた。
ぐらりとからだがかしずきそうになり
(あっ、また――危ない!)
コケてしまうと思った。けれど、あたたかな手のひらにつつまれた。
「……ほら、行くわよ!」
手を握りしめられて、引っ張られるように、歩いていく。――前へと。
フラッシュバックする。あの日のように。雪が降っていた。ひらひら、と。とても寒かったあの日。
キラキラした笑顔と、瞳。彼自身が光り輝いていて、とてもまぶしかったのだ。
(そうだ。合格発表の日もあのひとに手をつながれて……やっぱり魅怜と、あのひとは似ているかも。キラキラしているところが)
とても綺麗と表現することしかできない、幼馴染の少女と、あの 太陽 と名のる少年はよく似ていた。
由姫を引いてくれるところと、惹かれるところが。何と例えていいのか分からないが、似ていたのだのだ。
だから、言えなかった。
はじめて自分がこんなにも気になった異性の存在を、一番仲のいい少女に言えなかったのは、彼と彼女が似ていたからだ。
――なぜかわからないけれど、言いにくかった。
(……何でなんだろう?)
首をかしげると
「……どうしたのよ、由姫。あたしと登校できてうれしくないの? ……それともあたしが風邪を引いて合格発表見れなかったの怒ってるの?」
いつも強気な少女が、由姫の顔を不安げにのぞいてくる。
魅怜のほうが少し身長があるから、ほんの少し頭を下げて、のぞきこむかたちになる。
ビー玉の瞳だ。何色にでも染まりそうな、七色の瞳。
いつも見惚れてしまう。そのまま数秒、言葉を忘れて見惚れてしまうのが常のことだった。
けれど、今は違うことを思い浮かべてしまう。思い出してしまう。
魅怜に失礼だとわかっていても。思い出す。鮮やかに、鮮やかに。
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