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(ああ、あのひともこんな瞳をしていた。綺麗な黒い瞳だったのに、何色にも映えそうな、澄んだ瞳をしていて――)
ボッと顔が赤くなった。なぜか。意味がわからなかったけれど。あのひとのことを思い浮かべたら。
「ううん、なんでもないよ、違うよ。魅怜。憧れの高校での新生活だし、高校も魅怜と一緒に行けたのもあるしね、とりあえずうきうきしちゃって!」
ふるふると首を振り、思いつく言葉をならべる。
でも、なぜか、あのひとのことを言えなかった。この親友には何でも言っていたはずなのに、おかしいと、心のかけらに思いながらも。なぜか言えなかった。
(きっと、まだ会ってみない人だし、もし再会できたなら、こういうひとがいて、合格発表のときやさしくしてもらったんだよって言えるかもしれないし……男のひとの話をしないわたしがしたら、魅怜も入学前だし、困惑しちゃうよね)
うん、と自己完結する。
「……そっか、ならいいけど。あたしも由姫と高校通えてうれしいし」
後半の部分はポツリと。照れ隠しのようにつぶやく少女の言葉がうれしくて、由姫は満面の笑みを浮かべた。
「うん、わたしもうれしいよ!」
ぶんぶんとつないだ手を振り回し、前へと、進んだ。
太陽が、とてもまぶしかった。
――どうして、言えなかったんだろう。この気持ちをあのとき 魅怜 という、その名のとおり人を魅了して止まない少女に打ち明けていたならば、この気持ちはやめれたのだろうか。とまっていたのだろうか。
いいや、それでも、もうこの気持ちはとまらなかったのだ。あのときも、このときも、最初から、終わりがあるというならば――答えのない迷路に惹かれた瞬間から、もうとめられなかったんだろう。
キーンコーンカーンコーン♪ ベルが鳴る。学校のベルはとても好きだった。
(なんだか聞いていて、ウキウキする……)
蛇口から水が落ちている音がする。ポタ、ポタ……。とても、静かな一角になる。
(だれもいないし……なんだかどこか違う世界にきたみたい……)
今日はまだ一日目だ。入学式が終わって、各自、バラバラに帰っている。由姫が通う学校は部活動が盛んで結果を残しているとこだろいうのに、厳しくとも楽しくしているところらしく、まだ新学期一日目だというのに、さっそく部活動を自主的に開始しているところがあり、ほとんどのひとが見に行っているらしい。
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