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魅怜も言わずがな、運動が大得意な彼女は中学と同じ部活荒らしに行ってしまった。中学ではどこの部活にもしばられるのがイヤと行って、いろんな部活を助っ人という形でその実力で波乱を呼びまくった彼女だ。高校でも荒らしまくるのだろうか。それとも、いよいよひとつに決めるのだろうか。
どちらにしても、魅怜は由姫にどこの部活のことでも話してくれるだろう。
(…でも、わたしは魅怜に話せなかった……)
幼なじみの大好きな彼女。魅怜が一時、遠い異国に親の転勤で一年離ればなれになったときでさえも、ずっと手紙も欠かすこともすらなく、より友情を深め合ってきた。
なんでも、今日食べたものすら、どんなささいなことも、深いことも、わかちあってきた仲だった。
今日だって憧れの高校生活をひとつも不安に思わなかったとのは魅怜と一緒のクラスになれたから、友達を無理につくろうとは思わないほどに、魅怜は特別だ。魅怜さえいればいいと思うほどに。
けれど、由姫には秘密がある。できてしまった。
あのひとの姿をさがしてしまう。たった一日で会えるとは思っていないけれど。でもさがしてしまうのだ。
――太陽を、きらきら光り輝くものを見つけようと、必死で、由姫はさがしてしまう。
授業中、窓際の席になれたから、今はだれもいないはずの校庭で、歩いていても、目線をうごかしてしまう。
「……会えないのかなあ」
まだ一日目なのに、と。由姫は自分の気持ちが不思議で、苦笑した。
(こんな気持ちはじめて……だから、落ち着かないんだよね……どうしてだろう?)
問いかけに答えるかのように、風が吹いた。息吹を感じるような、さわやかな風。ふと、風のほうへと目を向けてみると、薄紅色の花びらが踊っていた。
さすが桜の紋章な学校だけあって、通学路だけでなく、校舎の周りも見事なものだった。
桜が、降っている。静かに、舞っていた。
ひらひら、ひらひら、と。あの日を思い出す。淡雪の日――。
思わず手を伸ばした。綺麗な黒髪がさらりと揺れる。身を乗り出した。
(……あと、ちょっとで……)
薄紅色の花びらが手に入るのに。
――でも、届かない。
ひらりと、舞う花びら。つかもうとする白い手。その手にほんのりと焼けた手が重なったのは一瞬だった。
手がふれた。由姫はこの手を知っている。一時、ふれた手だ。握りしめあった手。
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