第1章

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 情けなくも息を止めすぎて気が遠くなりそうだとふと思ったのもつかの間、彼は何事もなかったように涼しい顔で私の隣をさっと通り過ぎ、窓から見える三階の生徒会室を見てくすくす笑った。 『やってるやってる!』  見つめるまなざしはとても楽しそうだった。  なぜ、こんな近くで彼の横顔を拝めているのだろうか私・・・と無意識に思い、そして、私はぽろっと言ってしまった。 『い、行かなくていいんですか?』 『え?』  とても、とてもとても後悔した。  これじゃまるで、毎度毎度ここから彼らがいる生徒会室を眺めているかのようだ。というか、実際その事実は変わらないのだけど。 『あ、ああああああの・・・そ、その・・・』  言葉にならない。  はい!第一印象から絶望的。きっと王子から挙動不審な変な女だって認識されたに違いない。一気に気が沈むのを感じる。 『今日はさぼり』  私が普段腰かけている椅子に何気なしに腰を下ろし、王子はつぶやいた。  視線は会議室から離さないまま。  この人も、さぼったりすることもあるんだな・・・と内心思う。 『鳥羽って、かっこいいよね』  しかしどうして、彼まで音楽室に・・・とまた新たな疑問と脳内対決を始めた時、違和感のある言葉が聞こえた気がした。 『・・・え?』  鳥羽くん?  確かに、そういった気がした。  鳥羽くんが、かっこいい・・・?  王子が発した意外な人物の名前に、私はある人物が脳裏に浮かんだ。  同じ中学校だった鳥羽正人くん。たしか、サッカー部で・・・ 『村野さん、鳥羽のこと、好きだよね?』 『・・・え?』  さすがにもう限界。  私の思考回路はいっぱいいっぱい何を言われているのかさえわからなくなった。 『知ってるよ。毎週、ここで鳥羽のこと、見てるってこと』  メガネを胸ポケットにしまい、先ほどとは違う不敵な笑みを浮かべた王子の瞳に、今度ははっきりと私が写っていた。 『え・・・えーっと・・・』  わ、私が・・・と、鳥羽くんを・・・ど、どうして?  そして気付いたの。王子がいつも座るその席の隣が、C組の鳥羽くんの座っている席だということに。  それからよ。王子と話すようになったのは。  勘違いをして、からかってくる王子とね。
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