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確かに、鳥羽くんは中学の時から運動神経抜群で、背も高くてかっこいいと有名だったけど、はっきり言って、本当にこの時、王子に言われるまで、私は彼と同じ高校だったってことさえ知らなかったのに!
「はい、月花ちゃん・・・」
よかったね、優しい人たちがいて、と満面の笑顔で私に焼きそばパンを渡してくれる王子。
うん。あれから人より少し遅れて購買に到着した私たち。からっぽになった焼きそばパンのトレイを見た王子が、もうないんだね・・・とつぶやいた時、すぐそばで控えていたように女の子たちがこれ、もらってくださいと渡してきたのだ。まるで押し付けるように。
え・・・悪いよ・・・と言いつつ、王子はもらう気でいたのだろう。ありがとうと誰よりも輝くあのいつもの笑みで焼きそばパンの代金を彼女たちに渡し、ルンルンで私のところへ戻ってきたのである。後ろで女の子たちのきゃーという声が聞こえた。王子と近くで話せたからだろう。去年のことをふと思い出していた私も、その気持ちはよくわかった。
「なんであの子たち、焼きそばパンもってわざわざ待機してたんだろうね?」
きっと、昼休みに入る前に王子が焼きそばパンを買いに行こうとしている情報でも漏れたのだろうか?どちらにせよ、瞳をキラキラさせて王子を待ち構えていた女の子たちのあの表情を思い出してしまうといささか罪悪感はあったが、約束は約束だ。私は受け取ることにする。
「三つも食べて気持ち悪くならないの?」
無駄にもやもや考えてしまう私の気持ちなんてこれっぽっちもわかっていないであろう王子が私の腕に抱えられている焼きそばパンに目を向け、肩をすくめた。
「ひとつだけいただいて、残りは家に帰ってから食べるわ」
パンだろうがなんだろうが、王子から・・・というところがポイントなんだと思うけど。
「どうもありがとう、王子・・・」
「いえいえ、こちらこそ。貴重なCDを何枚も貸してもらっちゃって・・・」
あのCD、数量限定販売で今はすでに廃版なんだよといつもとは違う、なにか夢を追いかけている少年のように生き生きした表情の王子に思わず口元が緩んだ。
王子がMOONについて話しているときは、今でもなんだか心がほっとする。
いつもすました王子様フェイス(本人は意識していないと思うんだけど)からは想像ができないもので、CDを貸してくれたパパに感謝した。
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