第1章

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もちろん、我が家には遠く離れたママからということで、MOONのCDはたくさんある。期間限定品や数量限定のものでも、いつでも何よりも先に我が家に送られてきていて、そしてそれをパパが我が家のリビングに飾る。これが我が家のありふれた光景だ。 「でも、今日は月花ちゃんと同じ委員会になれたってことで、おれもぱぁーっと食べるよ!」  不覚にも胸がきゅんとした。  王子様かと思った。本当に本当の、絵本から抜け出してきた王子様かと思った。  こんなに近くになっても、彼は変わらない。輝きを放ち続けている。  だから、改めて思う。  こんなに近くにいるのに、いつも遠くにいるようにしか感じられないこの人に。 「王子・・・」 「ん?」  つらいのが嫌で、もう何も思わないように心がけていた私だけど、私、私はね、あの時見ていたのは鳥羽くんじゃなくてあなただったんだって今日も思わず言ってしまいそうになって、そしてあわてて自分自身にストップをかけることとなった。 「ううん。なんでもない」  村人Aは夢にまで見た王子様のそばへ行くことを選んだ。  たとえ、自分の中にある、温かい感情を殺すことになろうとも。  頑張って笑おうとしたら、やっぱり涙も一緒に落ちそうになった。 「いいなぁ?、月花は・・・」  長い長い学校が終わり、久しぶりに陸上部がお休みの志乃と一緒に帰宅していた帰り道。  彼女は突然大げさなため息をつく。 「なに?帰宅部ってこと?言っとくけどね、志乃・・・私にもあなたくらいの才能があればバレーだって続けたかったんだからね?」  それに、家事だってしなきゃいけないし・・・私こそ、いつも目標に向かって全力で突き進む志乃がうらやましくて仕方がなかった。 「違う!学園祭のこと!」 「・・・学園祭?」  何を突然・・・と予想もしていなかった言葉に驚く。 「学園祭って、まだ二か月も先の話よ?」 「まだじゃない。もう!だよ!ダンスの相手だよ!今年も探さないとって・・・」 「あ・・・そうか・・・」  そういえばそんな嫌なイベントもあったなといまさらながら思い出す。  去年はいつまでたっても相手が見つからなくて、それでこっそり一人で音楽室に向かってそこで時間をつぶしたんだっけ。 「月花はもう王子で決まったようなもんでしょ?」 「いや、王子はさすがに無理だと思うけど・・・」  自分の口から乾いた笑いが漏れる。
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