第1章

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 私が彼に恋をしたのは、高校の入学式の時だった。  キラキラ光る赤みがかった茶色い髪の毛に宝石のように美しい灰色の瞳を柔らかく細めた彼が、新入生代表の言葉を述べたあの時、あの瞬間、私はほかの子たち同様、その姿に釘付けになっていたんだ。  彼は王子と名乗った。  私はただ、必死で彼を目で追う。  周りの世界の音が消え、私の世界が、彼だけになった  優しい声色が、とても心地よい。。  昔から、私は自分自身が主役に慣れないと知っている。  だけど、だけどこの時、はじめて思った。 彼に近づけるなら、何でもする。   たとえ、お姫様になれなくても。 付き人のひとりでもいい。 ううん。本当に彼が王子様なら、きっと私はただの村人Aか、Bでしょうけど・・・ それでも私は、高鳴る胸のときめきをしずめることはできなかった。 私の世界が、今まで感じたことのない鮮やかな輝きでいっぱいになったように思えた。 「し、信じられない・・・」  よく晴れたお昼休み。  九月に入ったとはいえ、夏休みを終えたばかりの屋上の日差しはとても強く、今だ夏場を思わせるほどの熱気は残る。 「どうして私が・・・」  しかし、私はそんなことを気にしている余裕がなかった。  無意識に両手が震え、膝に置くお弁当箱がカタカタ揺れる。  自分でもまたかと思うけど、何度繰り返しても現実は変わることはないけど、それでもまた、同じ言葉を口にしてしまう。 「どうして私がクラス委員に選ばれなきゃいけないの・・・」  本当に、何度繰り返しても現実は変わることはないというのに。 「仕方ないわよ。クラスの全員が月(げつ)花(か)に手をあげたんでしょ?」 「そうそう。人気者だったってことだよ!」  中学一年生の時からの親友、田代(たしろ)南(みなみ)と八神志乃(やがみしの)が今にも泣きだしそうな私を見て、それぞれがなんだかおかしそうに笑う。彼女たちの様子に、私はますますげんなりしてしまう。 「月花なら大丈夫よ!」  何が大丈夫なのか説明してほしいものだけど、南の優しい瞳に映る自分の姿があまりにも情けないもので私は次の言葉が見つからなくなる。 「なんで私が選ばれたのか、わかんない・・・」  だから、すねた子どものようにぼそっとつぶやくのが精いっぱいだった。 「いいじゃない!また王子と話せるって!」  にんまりする志乃に私は完全に言葉を失ってしまった。
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