第1章

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「でも変ね。去年の月花はクラス委員になりたいって張り切っていたのに・・・」 「そ、そうだけど・・・」 「南、違うって。月花はあの頃、少しでも王子とお近づきになれるきっかけがほしかったんだってば!」 「ああ、そうだったわね」  くすくす笑う南に、志乃が大げさに告げる。 「だぁああああ!い、いつの話よ!」  そんな二人のやりとりに体中から勢いよく湯気がふき出した気がした。  あんなにぐったりしていたのがうそのように私は南に飛びつく。  南も志乃も、本当に楽しそうだ。 この二人、絶対私をからかって遊んでるわ。(ひ、ひとごとだからって・・・く、くそ?)  私の悩みはもはや、親友たちには聞き入れてもらえないであろう。  そう思ったらもう、何も言う気にもなれなかった。  雲一つない真っ青な空の下で、親友たちのきゃっきゃと笑う声(私についてだけど)に耳を傾けながら、私はぼーっと遠く、屋上のフェンスの、それよりももっと遠くの、真っ白に伸びた雲を見つめる。  そう。私、村野月花は去年、なりたくてなりたくて仕方のなかったクラス委員に、晴れて今年選ばれてしまったのである。 (クラス委員か・・・)  そうよ。そうですよ。なりたくてなりたくて仕方がなかったわよ。  静かに揺れる、あの深い淡い灰色の瞳が思い浮かんで、ドキッとする。 (私・・・)  無意識にもため息が漏れた。 (ここにいるはずもない人を想像して何をあわててるんだろう私)  この気持ちをなんというのだろうか。  去年の自分が聞いたら喜んで小躍りでも踊ったであろう出来事だけど、今の私には複雑な心境以外、何物でもなかった。 「初めは無謀だって思ってたけどさ。A組の誰もが一度見たら心を奪われるという王子相手に、D組の月花がさ・・・」  私の気持ちなんてお構いなしに、志乃と南はまだ話の続きを飛躍させながら盛り上がっていたようだ。 「でも、今はこの校内で知らない人がいないくらいラブラブでうらやましい限りよ、ねぇ」 「本当よね。まさか、月花とあの王子が・・・ねぇ」 「うんうん。なんだか月花が遠くに行っちゃったみたいですごくさみしいんだから!」  いつも通りだ。  まるでミュージカルのヒロインのように大げさな動作で私をからかう二人は止まらない。 「あのねぇ・・・」  だから、これも何度目になるかわからない、そんな言葉を私はまた口にすることになる。
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