第1章

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 言葉を忘れたように私と王子を交互に見る親友たちには非常に申し訳なかったけど、私はすぐ戻るからとだけ告げ、その場を去ることにした。  きっとまたあとで二人が正気に戻った時にからかわれるだろうから何かいいわけでも考えておかないと!と思いながら。 「ごめんね。せっかくみんなでお昼ご飯中だったのに・・・」  わざわざあそこまで来ておいて何をいまさら・・・と思ったが、私のペースに合わせて歩いてくれる王子の横顔を見上げる。 「大丈夫。もうほとんど食べ終わってたし」  まぁ、あとでさんざんからかわれるでしょうけどね。 「王子も急用だったから来てくれたんでしょ?」  王子が廊下を一歩、また一歩と歩くたびに周りの生徒が道をあけ、彼を見つめてうっとりする。彼は相変わらず気にしていない様子だったけど、私は何度経験してもこの感覚は慣れなかったし、きっと一生慣れることなんてないんだろうなと思った。 「あれ?やっぱり忘れたんだね?」  もはや自分の妄想の世界で試行錯誤を繰り返していた私に不意打ちをかけるように王子が不思議そうな顔でこちらを向いてくる。心臓がはずんだ気がした。 「え?」 「月花ちゃん、【MOON】のCDを貸してくれたから、そのお礼にって・・・」  あ、そうだ!そうだった! 「忘れたんなら・・・」 「お、覚えてる!ラッキーチューズデーの焼きそばパン三つ・・・でしょ!」  思わず声が弾んだ私に、苦笑する王子。 「だったら早くしないと、なくなりそうだよ」 「えっ、あ・・・」  ぱっと近くにある教室の時計を見るとすでにお昼の時間が開始してからもう半分くらいの時間が経過している。 「あああああああああ、も、もうないかも!」 「・・・うん。その可能性の方が高いけどね」  毎週、我が校購買部によって火曜日にだけ特別メニューで販売される焼きそばパンはそれはそれは絶大な人気で、それを買うためにいろんな生徒がお昼休みを記すチャイムとともに教室を飛び出し、お昼になってすぐに長蛇の列ができるほどだ。  今回、王子と約束してたからすごく楽しみにしていたのに・・・絶対にないだろうなと残念に思いながらも、それでも王子と私の足は自然と購買部の方に向かっていた。  みなが王子を見て振り返る。  そして、鋭い視線が私にも突き刺さる。
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