第1章

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 赤みがかった空が音楽室を燃えるように照らした始めるころ、私は一人で音楽室の窓際にもたれかかってこっそり彼の後姿を見守る瞬間が大好きだった。  あの日、王子が入ってくるまで。  ある木曜日の放課後、いつものように生徒会のミーティングが始まろうとしていた。私もいつもどおり定位置に待機して、まさにストーカーだわ・・・と何とも言えない複雑な気持ちを抱えながらも、早く王子が席につかないかなぁと今か今かと待ち構えていた。そして、気付いたの。ミーティングが始まったようすではあるのに、いつまでたっても王子が現れないということに。  席替えでもしたのかしら?と窓から少し乗り出してみたけど(完全に危険人物のようだったと思うわ)様子がわかるわけでもなく、学校自体を休んでいるのかさえわからなかった私は、仕方なく帰ろうとしたその時だった。後ろのドアが開いて、なんと、王子その人が入ってきたのであった。  メガネの奥の灰色の瞳が、私をとらえる。   私は肉食動物に見つかった小動物のように動けなくなった。  自分の目に見えるものが信じられず、息を飲むのを忘れていたと思う。 『お、王子っ!』  どれだけ時間がすぎたのかわからない。時間的にはほんの一瞬だったんだと思うけど、ありえない光景に体内の時計がすべて動きを止めた気がした。そして、私の中の時間が再び未来へ進みだした時、私は自分でも驚くくらいの声をあげていた。 『・・・え?』  ひいいいいいいと思ったのはそのあとすぐ。  驚いたように目を見開く王子。  なれなれしくも、陰で使われている彼のあだ名を叫んでしまったのだ。 『あ、いいいいいいえ、す、すすすすみません・・・』  穴があったら入りたかった。  声が声にならない。震えている。言葉が、出てこない。  胸の音が体中に響いていた。 『いや、こちらこそ。驚かせてごめん。合唱部の人?』  彼の声は心地よい。とても美しい音色に聞こえた。  が、そんなことは言ってはいられない。 『ち、違うんですっ!せ、先生に頼まれてっ!』  それは、いつのことだったか忘れてしまったくらい昔々のお話。すでに教材すら持っていない。どこからどうみても言い逃れのできない明らかに怪しいやつに違いない。  ひやひやして、頭からどっと汗が出たように思えた。
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