第1章

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 テレビの音がない部屋は、なんて静かなんだろう。  そんな中だから、私はあれこれ考えてるのか。 「……誰だよ、私を好きなんて送ったの……」  いや、緑川亜弓っていうんだろうけど。  誰だよ。緑川って声優か? ……友子が聞いてくれたらしいけど、同級生も、上も下も、そんな子はいないって言われたそうだ。  何なの緑川……もしかして違う学校? それこそどういう縁よ。私、帰宅部だから他の学校の子に見られること自体少ないだろうに。 「んー」  3  私は無個性だ。 「んー」  鏡を見て思う。  ほんと、つまらない顔をしている。 「んー」  すごい、ブサイクではない。  だが、かわいくもない。  確か、ネットニュースか何かで見たけど。人間の顔を何万人も集計して平均的な顔の造形を計算してみたら、結構美男子や美女になるって書いてあった――ような気がする。私は、そのワンランク下の平均なんだろう。  平均か。  無個性。  何もない。  何もないのはつまらない。  いや違う。 「何もないは、何がつまらないかも分からない」  だって、おもしろいことを何も知らないから。  4  HEY、YO!  お前、何で、メール送ったんだYO!  お前のせいで朝から晩まで、毎日――違う、毎時間――なんか語呂悪いな。 「あああああああああああ!」  何故か、机の上でラップの歌詞を書いていた。MC私か。多分、友子も含めて誰もが予想できなかった未来図だな。私もありえないと思う。 「てか何やってんだよ……」  こんなことしなくても、メールを送り返して聞けばいいのに。  あなたは誰ですか?  何で、こんなメールを?  あなたが好きなのは本当に私なの?  いいの、私は女だよ? ――いや、その、えへへへっ。  きもい、妄想をしてかぶりを振る。 「………」  また、ベッドに寝転がる。  私は怖いんだ。  だって、メールで答えを聞いたら私に答えが出てしまうような気がするから。  それが、お前の全てだよと。  答案用紙に点数を書かれるような気がするからだ。  そんなもの望んでいない。  私は自分自身の模試なんか必要ないし、私は私だ。マークシートや面接なんてありはしない。私を知っているのは私だから――誰にも、私を見透かされたくない。 「………」  携帯を投げ捨てる。 「……んぅ」  5  私はベランダに出た。
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