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どれくらい眠っていたのか、目が覚めた時にはすっかり辺りは暗くなっていた。
「あぁ、やっと起きたか」
突然すぐ側で聞こえた低い声にギョッとしてあたりを見回すと、前の席に誰かが座っていた。
「…………松成、会長?」
前の席で楓を見据えているのは、この学校の生徒会長。
割と辛辣な男だという噂は耳にするが、楓はよく知らない。
何度か職員室で見たことがある程度。
松成は理系コースで文系コースの楓とは共通の友人もいない。
その彼が、なぜここにいるのか。
楓の混乱は、すべてお見通しなのか、松成は軽く鼻で笑った。
「居残りがいないか見回りをしていたら、盛りのついた犬のような奴らがいたから、取り敢えず蹴散らした。
んで、念の為に教室の中を覗いたら、あんたがグゥグゥと寝てたんだよ」
遠慮のない物言いに、色々恥ずかしくて顔が赤くなる。
「ごめん。すぐ帰るから」
そそくさと鞄を持って立ち上がった楓の腕を、松成が捉えた。
「もう暗いし、途中まで送る」
有無を言わせぬ強い口調に気圧されてつい頷くと、松成はほんの一瞬頬を緩めた。
「じゃ、帰るぞ」
これが放課後マジックなのか。
歩き出した松成の背を追いながら思う。
だって、あの一瞬の笑顔らしき表情に、楓は確かに捉えられてしまったのだから。
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