side 正臣 8

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翌日、俺は興奮しすぎたのか、まだ朝早いうちに目が覚めた。 仕方なくキッチンでトーストとコーヒーの簡単な朝食を済ませる。 それでもまだ時間が余っていたので、部屋の窓を開けて換気もした。 昼からじゃなくて、朝から待ち合わせても良かったな。 12時半。 予定よりだいぶ早いが、俺は駅に向かうことにした。 駅前のロータリーが待ち合わせ場所。 ベンチで座って待つかな、と思って向かうと、そこには既にベンチに座って本を読む楓がいた。 なんでこんな早いの…… 「来てたなら、LINEくれればよかったのに」 声をかけると、楓はフニャっと笑った。 「正臣くんも予定より早いね」 「あー、まぁ……」 楓が本をしまい立ち上がったのを見て、正臣は手を握って指を絡ませた。 「行こっか」 「あの、手土産持ってきてないんだけど、途中で買えるとこある?」 「手土産なんていらないよ」 いつもより少しだけ早足で、家までの道を歩く。 楓のトートバックの中をチラリと覗くと、参考書が数冊とノートが見えた。 真面目にお勉強するつもり満々らしい。 「ここ、俺ん家」 「お、おじゃまします」 緊張している楓にフッと笑う。 「俺しか住んでないから」 「え?!ご両親は?」 「今海外。国境なき医師団て知ってる?あれに参加してるから」 「お医者さんなんだ」 楓の手を引いて、自分の部屋へ入れた。 ついに、俺のテリトリーに楓が入った。 それだけで、胸がドキドキする。 「飲み物持ってくるから、適当に座ってて」 キッチンに行って、ジュースを二人分用意するとまた部屋へ戻る。 部屋を開けた俺は、見事に言葉を失った。 「……何してんの?」 楓はなぜか俺のベッドでうつ伏せになっていた。 これはお誘いか? お誘いなのか? 「あ!勝手にごめんね?正臣くんの匂いするかなって」 なに、この可愛い生き物。 ローテーブルにお盆を置くと、俺もベッドに座った。 「こうした方が、俺の匂いするでしょ」 そう言って、楓を抱きしめる。 驚いたようにこちらを見上げた楓に、キスを落とす。 俺は、君が思ってるほど、紳士じゃないんだ、ごめんね。 キスを深く、深くしていく。 「楓、俺の真似してみて」 舌を絡めると、楓も必死にそれを真似た。 でも今日は、これで終わりにはしてあげられない。 狼の巣へようこそ、子羊ちゃん。
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