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教室の戸を開けると、そこには窓際の机で寝こけている竹山がいた。
すぐそこの廊下にバカップルがいた状況でこんなに熟睡できるなんて、大したもんだと思う。
音を立てないように近寄って、前の席に座る。
なんでこんなとこで熟睡するかな。
不用心だとか無防備だとか思わないのか?
ため息をついて、じっと寝顔を見つめる。
竹山の顔をこんなに間近で見るのは初めてだ。
同じクラスになったこともないし、共通の友達もいない。
でも正臣は、竹山のことはよく知っていた。
時折職員室で見かける彼女は、いつもノートやプリントを運んでいて、教師やクラス委員から雑用を押し付けられているのだとすぐわかった。
お人好しなのか馬鹿なのか。
半ば呆れた気持ちで見ていたはずなのに、気がつけば無意識に彼女を目で追うようになっていた。
もっと近くで見て、もっと話したいと思うようになっていた。
自分が甘やかしてやりたいと、そう思うようになっていた。
ぼんやり見つめていると、竹山が目を覚ましたらしく、子供みたいに目を擦った。
「ああ、やっと起きたか」
声をかけるとビクッと肩を揺らす。
人がいるなんて思ってもいなかったんだろう。
まして、クラスメートでもない、友達でもない正臣がそばにいたのだ。
混乱してパニックになっているのが手に取るようにわかって、ちょっと笑える。
彼女の中で正臣はあくまでも顔見知りか、それ以下のレベルだろう。
でももう、それじゃあ満足できない。
知り合い、友達、そんな中途半端な関係はもっとごめんだ。
仕掛けるタイミングは、今しかない。
寝起きで頭が働いていないうちに、送るのは当然のようだというような口振りで言えば、反射のように竹山は頷いた。
竹山が混乱しているならそのほうが都合がいい。
その混乱に乗じて、彼女の意識の中に自分を植え付け、すべてを絡めとるのだ。
教室の戸を開けると、正臣は後ろを振り返って、竹山に笑顔を向けた。
「遅いよ、楓」
早く、俺の気持ちに追いついてよ。
君のことが好きでたまらない、この気持ちに。
竹山の腕を引いて教室から引っ張りだすと、俺は、教室の戸を閉めた。
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