第1章

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 啖呵する少女に老人は忌々しげに言い放つ。 「黙れ! そんなありえぬ髪と瞳を持つ者に化け物としか言えぬわ。そもそも貴様が人間だとしても処刑にするわい。屋台の食料を盗んだだけでなく、ワシの大事な商品を逃した罪は重いからのう」 「あぁ、何が大事な商品だぁ。裁判官とは思えない悪趣味な人身売買じゃねぇか、逃して何が悪い。それに、食いもん盗むのは生きるために決まってんだろ。窃盗や強盗が多いのはテメェら貴族共がしっかり政治をしてねぇからだろうが!! 責任押し付けてんじゃねぇぞ、変態クソジジィ」  少女は低く唸るような声で老人を罵ると、老人は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。 「小娘がワシを侮辱するか、化け物の分際で人間に楯突くな!! 皆の衆、この小娘を串刺しにする様を良く見ておれ。処刑人早う、串刺しにせい!!」  老人の隣にいた処刑人は少女を串刺しにしようとするが、少なからず少女に同意している部分があり、ためらっていた。 否、心の奥では幾ら《魔女》といえども、子供を殺すのは忍びないと思っている部分があるからだろう。  そんな処刑人に痺れを切らした老人は言い放つ。 「ええい、貴様。悪魔の娘に加担すると云うなら貴様の一族まとめて処刑するぞ! それが嫌ならさっさと小娘を串刺しにして国中引きずり回せ!!」 老人が少女を小娘ではなく、悪魔の娘と強調して有無を言わせない声で言う。その声は処刑人のみならず、民衆も萎縮(いしゅく)させる程であった。すると、少女が老人に向かって挑発して嘲笑った。 「はっ、こんな小娘を見た目が違うってだけで《魔女》だの悪魔の娘だの、化け物だのくだらない迷信に仕立てあげなきゃオレを殺せないのか? それも権力を振りかざすほどオレが怖いのかよ。腰抜けジジィ、悔しかったら俺を切り殺してみろ」 「お、おのれ、言わせておけば。武器を寄越せ! 小娘、貴様の望み通り切り刻んでくれるわぁ」 少女の挑発にまんまと乗る老人は処刑人の剣を無理やり奪い、怒りの形相で斬りつけようとした。
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