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「ところで、このお嬢ちゃんの名前は? お嫁さんとして連れて来たんならちゃんと私に紹介しなさいな。腕によりをかけて美味しいものを作らなくちゃ。沢山食べて私に孫を見せなさい」
その突拍子もない言葉に赤髪の少女は林檎を喉に詰まらせてむせる。向かいにいる少年は呆れながら少女の隣にいる母親に答えた。
「母さん……。出会ったばかりの子をいきなり嫁として紹介するわけがないでしょ。気が早すぎる、俺はまだこの子に名乗ってないし、この子の名前も知らないんですから。それに十歳ぐらいの小さな子を嫁にするのはちょっと……」
「誰が十歳つったよ、オレは十四だ。で、アンタらなにもんだよ」
少年に幼く思われていたことが気に食わない少女は奇妙な親子に警戒して尋ねた。
「えっ、キミ十四歳!? 俺と三つしか違わないのか。ごめん、睨まないで、ちゃんと名乗るから。俺はギル、流れ者の魔法使いだよ。でキミに林檎を上げたのが〝ドラゴン″のフレイア、俺の母さんだ」
「ちょっとギル、ドラゴンなんて総称で呼ばないでよ。いつから母さんを悪魔呼ばわりするようになったの? 母さんは悲しいわ。ドラゴンじゃなくて龍だと訂正しなさい!」
「別に、龍よりもドラゴンって紹介した方が分かりやすいし、呼び名なんてどっちでもいいじゃ……。ごめんなさい、炎を出さないでくれませんか。俺が悪かったです」
「うむ、よろしい。私達が名乗ったんだから、今度はお嬢ちゃんの番よ」
少年――ギルが、幼い子供――フレイアがドラゴンだと云う紹介に何の冗談だと思う間に、親子漫才をし始める始末。その隙に逃げようとしたが、急に名を尋ねられて逃れるタイミングを失った為か少女は挙動不審気味に名乗った。
「コ、コーネリアだ。つうか、ドラゴンって本気で言ってんのかよ。あんなもん、ただの伝説、迷信だろ」
少女――コーネリアの疑いの眼差しにフレイアは答える。
「ドラゴンじゃないわ、龍よ、コーネリアちゃん。迷信か、事実かと言ったら事実よ。え~と、確か原罪の悪魔伝説だっけ? 事実がかなりへし曲げられて、いつの間にか私が悪魔扱いされているやつでしょう。まったく、なんで私が悪魔なのよ。腑に落ちないわ! 〝龍″である神の私がお母様を独占するわけないし、ましてや可愛い兄姉弟妹とも子供とも云える子達を虐殺なんて真似しないわよ!」
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