森の中の愛の詩

3/6
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 移動する事を止め、グルーガーに対して光の思念を発し、 命乞いを試みた。ミーファスという種族は争いをとても 嫌う。彼、彼女達の本質は愛であり穏やかな光の種族 だった。彼女の力を感受出来る生物なら、もしかしたら 思い止まらせる事が出来るかも知れない。  ミーファス達はもともと「言葉」を持たない為、会話自体は とても原始的な「感情表現」が主体だった。だが、この新しい 世代のミーファス達は既に「言語思考」という表現力を手に入 れていた。 《お願い。私を食べないで。攻撃するのは止めて》  ミーファスであれグルーガーであれ、血の通う肉体を持って いるという事は、それが霊的な身体を有する証でもある。  そのレベルで言える事は、相手を食べると言う行為は即ち、 自分自身を切り刻む事と等しいと言う事だ。  彼女は精一杯、愛と光を放出し、テレパシーを通して懇願し 続けた。  だが……彼女の祈りも想いも通じる事は無く、肉食龍の放出 する、腐臭のような匂いが迫ってきた。 《!!!》  彼女は観念した。恐らくもう一つの力を開放したとしても、 もはやアレを止める事は出来ないだろう。この状態になって彼 女は、自分達の行き過ぎた好奇心を悔やんだ。森の深層部に行 ってみたい。ちょっとした冒険の筈が、この有り様だ。  キイイイィィーーーッ!  雄のミーファスが飛び出して来て、彼女を抱きかかえると横 っ飛びに跳ねて、その場を回避した。  キュゥーーン。  キュキュキューーッ。  鳴き声が重なり合う。  その心の内部で2匹は互いに心を通わせ合い、無事な事に感 謝をしつつ更に森の奥へと逃げ込んだ。  グルーガーはさすがに諦めたのか、それ以上森の奥へと侵入 しては来なかった。  どれくらいの時間、森の中を彷徨ったのだろう。自分達が 元いた群れからも、かなり遠くまで来てしまった筈だ。  仲間が自分達を探しているかも知れなかったが、2匹はとり あえず、自分達の絶対的な身の安全を確保するまで、群れに戻 る事は出来ないと考えていた。  深い青色をした二つの巨大な月が、幻想的な輝きを放ち 空に浮かんでいた。その周りにキラキラと輝く星々が散り ばめられ、静まり返った森の中に優しい光を投げかけて いる。  二匹は寄り添いながら森の中を行く。そして、不意に視界が 大きく開ける場所にやって来た。  
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!