森の中の愛の詩

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 そこは崖の端であり、眼下には見渡す限りの草原が広がっ ている。初めて見る光景に、2匹は息をのんだ。  何て広いんだろう。世界って、こんなに広かったんだ。  自分達が今まで見てきた世界なんて、これに比べれば、足元 に転がっている小石よりも小さいんじゃないのか?  そんな気持ちになっていた。  高い崖の上から見渡す世界は広大で、その果てなど想像もつ かない。微かに緩い弧を描く地平線。  この世界そのものが丸い形をしている、そんな事は思いもつ かない2匹ではあったが、空間の広がりをその持ち前の超感覚 と繋げる事で、更にその世界に対する認識を深めて行った。  雌のミーファスが自分のすぐ側にそびえる、大きな 樹木に関心を寄せ、率先して昇り始めた。樹木の表皮はいい具 合に凹凸が有り、手足がそこそこに器用なミーファスにとって は、苦も無く昇ることが出来た。  雄もそれに倣って、一緒に樹の最上部を目指し昇り始める。  やがて木の天辺、2匹の小動物の体重を、やっと支え切れる 程度の枝が生えているところで、2匹は仲良く並んで 腰を降ろした。  キュキュウ。 《何て広いんだ》 《あそこには、誰か住んでいるのかしら》 キュッ? 《私、あそこに行ってみたい。あそこに何があるのか知り たい》 《うん。僕もそう思う。あそこに行って何があるのか、誰がい るのかをこの目で確かめたいな》 《呼びかけてみましょうか》 《君の念話はとても遠くまで届くからね。誰か応えてくれる かもしれない》  2匹は互いに見つめ合い、その心の中で想いの形を交わし合 った。暖かなエネルギー、光の振動が全身を包み込んで行く。  ミーファス達はまだ、自分達の持つ力の全てを知った訳では 無かった。その力が生み出すもの、及ぼす影響、そういった事 に関してほとんど知識が無い。  だが、それ故に無垢な心、純粋な精神でそれを受け 止める事が出来た。何も怖れる事無く、疑う気持ちも無く。  雄のミーファスは、頭上で静かに光っている2つの月を眺め ながら、考え続けていた。  世界がこんなに広いのであれば、目の前に、こんなにも広い 世界があるのであれば……もしかしてあの丸く光っている物も 「世界」なのではないだろうか。  だとすれば、暗くて何も見えない部分は何なのだろう。あそ こには世界は無いのか。
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