森の中の愛の詩

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 いや、あの小さな煌めきは何か?もしかすると大きな世界、 小さな世界、そう言った世界がそこ彼処に在るのだろうか。  彼の心に生まれ出た好奇心は、止む事を知らなかった。  湧き水のようにどんどん吹き出し、それは自分達の未来の事 にまで達しようとしていた。 《僕らは……きっとあそこへ行くんだ。あの丸い世界 に行って、そこで何かを見つけるんだ。そして、僕たちの仲間 があそこで大勢暮らす様になる。何てワクワクするんだろう。 こんな気持ち、初めてだ》  彼が描いた未来のビジョン。それがいつ達成されるのか、彼 にはそれを知る由も無かったが、それでも満足したらしく樹上 で大きく伸びをする。  ふと隣を観ると、何かを言いたげな彼女の様子。そして彼に はそれが何か、直ぐに感じ取る事が出来た。  あたりをきょろきょろと見回す。少し頭上の他の枝に目をや ると、そこには赤く熟れて美味しそうな木の実が、沢山なっ ていた。  だが、手を伸ばしてもとても届く距離では無い、しかも枝は とても細く、そこに繋がる幹自体が昇れる限界を超えていた。  細長い枝をむしり取って、振るってみたが届かない。風も無 く、木の幹を揺すってみても木の実は落ちてくる様子はまるで 無かった。  ひもじい彼女の為に頑張らなくては。  彼の心が奮い立つ。  ほとんどのミーファス達はこういった超感覚、超能力を争い や戦いに使用する事を好まない。彼、彼女達にとって超能力 とは、仲間と解り合い、愛し合う為の有効手段であり、 困っている仲間達を助け支援する為の能力だった。  すなわち、こんな時こそ、自分の持っている能力を 使うべきだ。そう考えた彼は心をいったん鎮めると、 木の実に向って、凝縮させた思念を向けた。  ぽとり。  木の実が頭上から落ちて来て、それは見事に雌のミーファス の手に中に着地した。 《ありがとう》  彼女の感謝の思念。 《うん……喜んでもらえて、僕も嬉しい》  見つめ合う2匹の瞳の中には、空に浮かぶ月の光が射しこん でいた。  雌のミーファスは手にした木の実を二つに割ると、そっと 片方を雄に手渡した。 《一緒に食べましょう》  一つの物をシェアして、共に同じ想いを味わい楽しむ 喜びを、2匹は知っていた。 《愛しているよ》 《私も。ああなたを愛しているわ》   
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