第1章

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 次の日の朝。  本当は用など無いくせに、僕はまた最上階に来ていた。  同じような時間だと思っていたが、今日は教室の前には誰もいなかった。本当に何だったんだあの子はと思いながら、教室の前を通りすぎようとしたら、換気のためか引き戸が半分くらい空いている。  その奥に彼女はいたのだ。何もない空間に笑顔を振りまきながら。 「おはよう! 芽衣ちゃん。本条君」  そう言って手を振る。少し考えて、本を取りだして机に置いた後、 「おはよう、マッキー!」  そう言って、項垂れる。 「ううう、やっぱりいきなり名前呼びはまずいかな。女の子でもさん付けがいいのかな。昨日マッキーって呼んでねって明るく芦田さんに言われたけど、本気にしたら何コイツって思われないかなあ」  ああああ、なんて悲痛な声を盛大に漏らしながら、彼女は机に突っ伏した。  察するに朝の挨拶に向けて予行演習中だったらしい。何だそんなことか、と僕は思ってしまった。朝の話題なんか今日のお天気に始まり、友達とバカやらかした話、近所のお勧めスポットなど多岐にわたるのだ。思ったこと言えばいいんじゃないのかなあ。
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