第1章

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教室の戸を開けたら、そこには僕がいた。いや、緩やかなカーブを描き、てらてらと光っている白っぽい壁のような何かに、自分が写っているのだ。 一夜漬けで臨んだ試験が終わって、睡眠不足の頭が、フラストレーションを起こしているのだろう。これは脳の見せている幻覚だ。そう思い、瞬きをしてみたりするが、消えそうにない。すると、その壁のようなものがスライドするように動き始めた。そこで、それが白一色ではなく、濃淡のある焦げ茶色の部分がある事を知った。 消えないどころか、動きもするその幻を、僕はどこかで見た事があるような気がしていた。しかし、それが何なのか思い出せない。そこで少し後退りして、よく見ようとした。 すると、それの一番、色の濃くなった部分が収縮し、教室の戸から離れたのが分かった。そこで漸く、全体像を見る事が出来た。 それは瞳だった。それも、とてつもなく大きな瞳。 次に、幻聴が聴こえてきた。いや、幻聴であって欲しかった。 「やばっ! これ、向こうから見えてるみたい」 「ああ、これは駄目だね。あちこち綻びが出来てるよ。これは最初からやり直しかなぁ」 「えー、折角ここまでやったのに」 「仕方ないね。これが出来ないといつまで経っても不合格だよ」 「はぁい……あーあ、また最初からかぁ」 僕の耳に聴こえた幻聴は、ここまでだった。 だって、僕の世界はその後、暗転してしまったから…………──。
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