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「岡野くん。ちょといいかな?」
放課後、俺に声をかけてきた子。見覚えのある子。この子、匠真の……。
なんだろ? 俺に用事って事は……匠真の事で相談……とか?
またモヤモヤが俺の中で膨らむ。本当ならあまり関わり合いたくない。他の誰かの口から匠真の話なんて聞きたくない。聞きたくないはずなのに、俺は言われるがまま彼女の後を歩いた。
連れて来られたのは人気のない廊下の端っこ。恋の相談にはぴったりだ。でも、そこにいたのは、淡いピンクの手紙の子だった。小さくなるその子の背中を押す匠真の……。
「佳人君。あ……あのねっ……」
「あ、こないだの手紙。ね?」
俺がポケットの手紙を取ろうとした時、ガッと腕に圧力がかかった。そのまま引き寄せられ、体が傾く。いきなり俺の腕を掴んだのは、俺のよく知ってる手。
「匠真……」
匠真は彼女たちだけを見てた。お得意の涼しい顔で、容赦なく投げかける残酷な言葉。
「ごめんね、俺らあんたらに興味ないから。佳人も譲る気はない。帰ろ」
あまりにもの出来事にポカンとする俺と彼女たち。匠真はひとつも気にすることもなく、俺の腕をグイグイ引っ張ってズンズンと歩いてく。
「ちょ……匠真」
俺の呼びかけにも答えない。大きな歩幅で歩き、俺を引っ張っていく。せっかく腹をくくったのに。大人になれって言ったのは匠真なのに。俺を置いて先に大人になったくせに。
「なんなんだよ!」
喚く俺に匠真は振り返りもしないで、落ち着いた声で言った。
「もぅ。……離さない」
「ちょっと待ってよ三宅くん!」
遠くから女の子たちの抗議と足音が追いかけてくる。
匠真がグイッと繋いだ手を引っ張って、よろめいた俺の体を廊下の窓ガラスに押し付けた。背中の衝撃と、目の前の匠真の迫力に動けなくなった。
俺をまっすぐに見る匠真。その顔が傾き、ゆっくり瞼が伏せられ、近づいてきた。
「きゃーーーー」って女の子たちの悲鳴が聴こえ、そっと当てられた優しい唇が離れてく。
匠真は呆然としてやっぱり動けないでいる俺に、挑戦的な目で微笑んだ。それから女の子たちの方へ顔を向けあの涼しい顔で言ったんだ。
「……そゆこと」
完
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