第1章

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 今日のところは、もう死ぬのは無理だな。明日にしよう。メグミがその子の手を引くと驚くほど冷たかった。その子のお腹がぐうと鳴った。 「お腹すいてるのね?」 まだ辺りが見えるうちに、急いでメグミは車まで戻った。後部座席にその子を乗せると、少し下ったら小さな商店があったことを思い出し、とりあえずそこから警察に電話させてもらおうと思った。メグミは死を覚悟していたので、携帯も貴重品も持っていなかったのだ。  ようやく民家らしきものが見えてきた。小さな昔ながらの商店の前に車を停めて、男の子をつれて店の前に立った。 看板には、「十間村」と書いてあった。 村の名前なんだろうか? 「あんれ、かわいいワラスだねえ。」 しわくちゃで目がどこに開いているかわからないようなお婆さんが出てきた。 「すみません。電話を貸してもらえませんか?この子、迷子なんです。」 そう言うと、お婆さんは 「あんれ、あんたの子じゃないのけ?そんりゃあ大変だあ。あんた、ダイヤル式の電話だんが、ええかね?」 と電話をすすめてくれた。こんな年代ものの電話なんて、資料館くらいでしか見たことが無い。 「どうやって使うんですか?」 「ああ、この穴に指を突っ込んでさ、ここの引っかかりまで引っ張るさね。それで番号を順番にここまで回すさね。」 しわくちゃの指を添えて教えてくれた。110番を回して、ずっと待ったが応答が無い。 「お婆さん、電話通じませんよ?」 そう言うと、お婆さんははあーと言い、受話器を耳につけた。 「ほんとさね。こりゃあ、故障かね。」 メグミは途方にくれた。この子を連れて交番のある町まで行かなくてはならなくなった。その時、またひときわ大きなお腹の鳴る音がした。 振り向くと、男の子は悲しそうにメグミを見上げた。 「あ、お腹、すいてたんだっけ。」 メグミはその時点で自分もお腹が空いていることに初めて気付いた。 でも、貴重品を一切持ってきていなかった。メグミはポケットやトートバッグの中を探ると、なんとか小銭で100円くらい出てきた。 「すみません、このメロンパン一個ください。」 そう言って100円差し出すと、お婆さんはあいよと言い、あまり新しくなさそうなメロンパンを一つ差し出した。
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