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「これ、食べなさい。」
そう言って、男の子に差し出した。
男の子は嬉しそうに、パンに噛り付いた。メグミはまたリョウタのことを思い出していた。リョウタもメロンパンが好きで、必ずおいしいクッキーのところから食べてしまうので甘くないところを残したりしていて、よく叱ったものだ。
メグミがその様子を見ていると、男の子はパンを半分差し出してきた。お腹はすいていたけど「全部食べていいのよ?」とそのパンを差し戻した。すると、男の子は怒ったような目で、また半分のパンを差し出してきた。
「ありがとう。じゃあ遠慮なくいただくわ。」
そう言うと、メロンパンに噛り付いた。
安っぽいメロンパンのザラメの甘さが舌いっぱいに広がり、すごく幸せな気分になった。それを見て、初めて男の子がにっこりと笑った。メグミは意味もなく涙が出てきた。ありがとう、ありがとうと何度も言いながら、泣きながらメロンパンを食べた。
お婆さんに礼を言うと、メグミは男の子を車に乗せて麓に降りようと、振り向いた。すると、そこに男の子の姿は無かった。
え?どこに行っちゃったの?メグミは店を出て、懸命にあたりを探した。
こんな夜中に、子供一人で山の中に居たら死んじゃう。
「どこ?どこに行ったの?坊や!」
必死に探していると、雑木林の中からブランコをこぐ音がした。
キィーコ、キィーコ、キィーコ・・・
嘘でしょう?あのブランコの雑木林からは、車で軽く10分はかかるはず。
ここにブランコがあるはずないもの。
半信半疑で林に入っていくとブランコが揺れていた。
誰もいないのに、ひとりでに揺れていたのだ。
メグミは眩暈を感じた。林の木々がメグミの周りをぐるぐると回転しだしたのだ。
キィーコ、キィーコ、キィーコ、キィーコ、キィーコ、キィーコ・・・
回る林と揺れるブランコ。メグミはもうそこに立っていることができなかった。
メグミはいつの間にか、車内でハンドルに突っ伏して眠っていた。
あたりを見回すと、いつの間にかしらじらと朝があけていた。
ここはどこ?あたりを見回すと、どうやら一番最初に車を停めた雑木林の中のようだ。
あの子は?メグミははっと我に返り、助手席を見た。
すると、そこには、メロンパンの香りのする、ビニール袋が一枚落ちていた。
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