一章

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 一週間。あれから一週間経った。俺が起床してパソコンを構おうとすると、いきなり引き戸が開かれてミライと名乗る少女が入ってくると布団に寝転がる。そして一日中スマホを弄ってその場を動かない。  動く時は家族が俺の部屋を訪れる時だけだ。それも見計らった様にあいつが引き戸を開けて出ていくタイミングで家族が入ってくる。魔法とあいつは称しているが、こうも奇跡じみた事が続くと信じたくなる。そして夕飯時になって俺が部屋から出て食べ終わって部屋に戻るとあいつは居なくなっている。それを計七回。俺も俺だ。現実逃避で見て見ぬふりを続けていたが、逆に自分に問いたい。  ――なんで追い出さない?  その問いにはもう答えが出ていた。女だからか? 可愛いからか? 口は悪いが今の所人畜無害だからか? 一応それも答えと言えば答えだ。しかしそれよりも遥かに大きなある感情の様なものがあった。それは《他人なのに他人と感じなかった》からだ。  少し分かりにくかったかもしれない。簡単に言うと《家族》の様な親近感、馴れ合い、親戚というよりは家族に近い感覚。錯覚かもしれない。だが俺はこうして一週間もこいつを居座らせている辺り、何かこいつには俺と関係があるかもしれない。  兄妹と思った時もあったが、それだったら母さんから紹介があってもいいし、こいつが家族を避けている理由が分からない。  とにもかくにも俺はこうやってだらだらと一週間もこいつを居座らせている訳だが、ここまでアニメよろしくの展開に慣れつつある俺もなんかすごいと思えてしまう。リアルで起こっているのに主観というか、主人公とまでは言わないが傍観者である視聴者と感覚がここまで違うのはある意味想定してなかった。というか想像すらしないだろう。当の俺が言うんだ。 「ねぇ?」  何か聞こえたような気がした。しかしヘッドフォンのせいでよく分からなかったので無視。 「ねぇ!」  今のは聞こえた。というか大きすぎて下に響きそうだ。家族に見つかりたくなかったのかよ……  というか出会った初日以来今まで無言を貫いていたあいつが、大きな声を出してまで俺を呼んだ事に驚きだ。 「はい?」
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