一章

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 おぼろげな意識の中、視界に二人の女性が見えた。 「よっわ」 「いきなり二回も空間転移すれば酔いが酷くなるのは当たり前よ。嘔吐しなかっただけでもすごいわ。この子」  意識がしっかりしてくると俺は横になっているのが分かった。そして目の前にはミライと知らない銀色の長髪の女性が寄り添っていた。 「?」  まずは全く状況が掴めない。周りは白い壁で覆われ、その中はパソコンやら何やらと要は素人目からは研究室の一室に見えた。そこに彼女が怒った様な顔で仁王立ちして、銀髪の女性はどこか優しそうに俺の傍に座っていた。  二十半ばだろうか。その女性は黒い眼鏡に長い銀髪をポニーテールにしている。服装は研究室さながらの白衣。彼女とは正反対におっとりした雰囲気を醸し出している。だが、その髪の色。白髪では無いその白銀の色は彼女―ミライ―と同じく全く違和感がない。天然物と言っていい。一体ここはどこなんだ? 「え? ここは……?」 「能研の一室よ。あ、能研っていうのは――」 「そんなこといいから。喉乾いた」  自己中心という典型をまざまざと見せつけられた。本当はあんたから説明を受けてもいいのに。 「それじゃ、あなたもいきなり連れて来られたから、休憩を挟みましょ」 「あ、はい……」  満面の笑みで言われ、俺は少し口元が緩んだ。 「ふんっ」  なんだろう? あいつもあいつなりに他の女にちやほやされたから機嫌が悪くなったのだろうか?
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