6 秋祭りの夜

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 だが、それも家の門塀が見えてくれば終わりを迎える。  頼りない指先だけの繋がりは、するりとほどけていく。初琉の意志によって。 「ただいまぁ」  門をくぐれば、初琉は俺の手を離し、小走りで先を行く。  鍵のかかっていない玄関ドアを開ける後ろ姿を見送って立ち止まり、それまで初琉と繋がっていた右手を見た。  まさかとは思うが。俺のこと、帰り道のボディーガード程度に思ってんじゃねぇだろうな?  そう思ってしまうくらいに呆気なく離れていく温もりに、一抹の寂しさを覚えてしまう。  繋いだ指先に、時折思い出したように力を込めた時の、俺を見上げる初琉の表情を見ていなければ。  あの、俺を自惚れさせる、慌てたような恥ずかしそうな表情を見せてくれていなければ。  この寂しさに、焦りさえもが加わるんだろうな。
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