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昼食が終わる頃、俺は再び甲板に出た。
海上の魔物はウィステリアに引き寄せられているのか、午前中の戦闘以降、俺たちが船上で奇襲されることはなかった。
このまま行けば、翌朝には港に着くだろう。だが、この船自体を港に横付けする事はできないらしい。
ま、当然だな。
この船には俺たちの他にも一般人が大勢乗っているんだから。
船長の許可を貰って避難時用のボートを1隻工面してもらっていた。
幸いな事に、俺たちのような物好きは他にいないらしい。
「随分静かな航海になりましたね」
声のした方を振り向くと、鎧を脱いだデックが、船べりに肘を乗せて水面を見つめている所だった。
鎧は身に付けていないが、相変わらず無骨な大剣を背負っている。
「なぁに、明日になればまた楽しいパーティーが始まるよ」
「ははっ」
相変わらずデックは悠然としている。こいつと同い年の時って、俺は何してたかな。
そんなことを考えていたら、珍しくデックが続けて話しかけてきた。
「フォロン、戦うことは好きですか?」
「ん?……あんまり、好きじゃないな」
「私は好きですよ」
デックは、今まで見せたことの無いような微笑を浮かべた。
「戦うことが好きで、私は剣を学びました。それが兵士長の目に留まり、やがて、私はイストルランド兵として抜擢されました」
「はは、よほど強かったんだね」
「はい」
デックは淀みなく答えた。
やっぱり、こいつの事はよく分からない。
「ですが、私には、人は殺せませんでした。仲間からは嘲笑され、不名誉なアダ名も付けられました。兵を辞めようと考えていた時に拾っていただいたのが、シャルエ様……エクート様なのです」
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