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「別に、無理する事はない。お前が嫌なら戦わなくていい。恩に報いる必要なんてない。あいつは気にしちゃいないよ」
「……分かっているつもりです」
分かってないよ。
エクは、誰かに恩返しをしてもらうために色々とやってる訳じゃない。むしろ、そんな恩着せがましい事は大嫌いだ。
……なんて、腐れ縁の俺が言う事じゃないけどな。
「王妃様に呪いを掛けたのは、誰なのですか」
デックが言いたかったのは、やはりこの事か。
エクがああやってふざけているのは、実は恐怖の裏返しだ。
あいつをずっと見ていた俺だから分かる。
呪いを一番解きたがっているのは他でもない、あいつ自身だ。
だが、呪いが解かれた時、自身はどうなってしまうのだろう。
そして、あいつがその身をもって守ろうとした誰かは、どうなってしまうのだろう。
それが怖い。
だから、あいつは誰にも言うことができずにいるんだ。
「それがさぁ、俺にも分からないんだな。というかあいつ自身、記憶が無いみたいなんだよ」
そう。
残念な事に。
エクは大事な仲間の誰かを助けるために、呪いにかかった。
けど、肝心な、その“誰か”についての記憶が一切無くなってしまったらしい。
デックの隣に行き、俺も船べりに肘をついた。
「俺も考えた事があるよ。
呪いの根源になった奴を殺せばいいんじゃないかってな。でも、それが誰か分からないんだと。ウソを付いている訳でもないようだし、ほんと、お手上げってやつだ」
「そうですか……」
デックは見るからに落胆した表情だった。
「俺は一国の主でも何でもないから、あいつらがどんな考えを持っているかはよく分からないが、いくらセックスしても愛する人の子供ができないってのは、相当苦痛だろうな」
「…………はぁ」
返事が鈍くなったのでそっと窺うと、耳まで真っ赤になったデックが俯いていた。
おぉ、これこそ若者の反応だ。
若い、若いぞデック!
なんとなく優位になった気分だ!
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