14人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいよ、じゃあ付いてきて」
今度はエクを先頭にして、俺たちは建物の裏口から外へと出た。
店から持ってきていた魔物避けの香水を使っているのだが、これもいつまで効果が続くか分からない。
建物のあちこちから、歯車の回る音や何かをプレスする音が響き、俺たちの足音をかき消していたのは幸いだった。
迷路のように入り組んだ狭い路地を抜けて、用水路の流れる薄暗い場所までやって来た。
工場の一角といったところだろうか。道路の左右には似通った形の倉庫が立ち並んでいて、シャッターの上に飾られている歯車の形をしたプレートには通し番号が彫られていた。
この辺りは、海沿いより魔物の数が少ない気がする。
まだ内陸の方までは、魔物は入って来られないようだ。
「最近は倉庫で実験することが多いって言ってたし、多分ここだよ」
エクが指差したのは、歯車に
「Si―07」
と彫られた、石造りの黒い倉庫だった。
屋根からは背の高い煙突が3本伸びていて、見ると、そこから白い煙が立ち上っている。
「何かいるみたいですね」
デックが言う。
これで中にいるのが人間じゃなかったら、さすがに困っちゃうぞ。
「おーい、誰かいる?」
警戒感ゼロの奴が1人、勢いよくシャッターを上げた。
「ひいっ?!」
中で誰かが小さく悲鳴を上げた。
室内には、エクなら10人くらいは余裕で入れそうな竈が3基、激しい焔をあげていた。
左右には、山積みにされたツボや、薬草水の詰まった棚、ノコギリや巨大な火バサミ、何に使うのか恥辱の樽まで置かれている。
「あれ……君は……」
ツボの陰に隠れていた男が顔を出した。
ヨレヨレシャツに白衣、撫で肩で気の弱そうな男。歳は俺と同じくらいだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!