14人が本棚に入れています
本棚に追加
頭がおかしくなったわけではない。
断じて違う。
俺はシェンの元まで駆け寄ると、窓ガラスにへばりつく勢いで、突然現れたその美女を見つめた。
金色の長い巻き毛、紺碧と黒のオッドアイ、そして、薄絹の際どいロングドレス。
間違いない。
シェンの肩に手を当てて宙に浮かんでいるこの美女は、召喚カードの中でもレア中のレア、“月下精霊バラフェン”!!
俺に微笑みかけていた美女は、シェンが手でその姿を払い除けると、まるで煙のように、ふっと姿を消した。
残ったのは、1枚のカードを持ち、相変わらずニタニタ笑いを崩さないシェン。
そして、窓ガラスに映る情けない顔をした眼鏡の男、俺。
「シェン、今のはどうやって……」
聞くまでもない。
シェンが持っているのは、俺と同じ“召喚カード”だ。
魔具ではなく神具と称されるこのカードは、現在の技術では到底作る事ができない。
何故ならその名前の通り、“神”が精霊と契約して、魂を封じ込めて作り出した物だから。
「余りにも時間がかかっているから、ちょっと急ぎたくてねぇ」
それは悪かったな。
「それより、どうして貴重なレアカードをそんな簡単にッ……」
全てを言い終わる前に、シェンが肩掛け鞄から何かを取り出した。
輪ゴムでずさんに留められたそれは、間違いなくカードの束。
しかも、鞄の隙間からは、手にした物の他にも何束か見え隠れしている。
「前に趣味で集めてたんだよね、このオモチャ」
「オモチャ?!うちの店でも滅多に見ない、貴重なカードが、おっ、お……」
駄目だ、落ち着け。
「おっ……お…………“精霊美少女”シリーズはお持ちですか」
興奮しすぎて何故か敬語になってしまった。
「コンプしてるけど、見る?」
「見せてください!」
すまん、チェルシー、2分でいいから。
そんな目で見ないでくれ。
最初のコメントを投稿しよう!