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「…………のほぉ~……しぃ~…………のぅおぉ~♪」
……来た!
大地を揺らす、いや、震撼させる悪魔の歌声。
音程という概念を覆す、怒涛の怪音波。
奴は…………、くそっ、船尾楼の扉が開いている。
おかしな場所からの登場だと思わせ、裏をかいて堂々と歩いて来やがった。
音源は、あそこか……!
俺は船嘴から船体の後方へと、床を蹴った。
途中、デックが振り回す横凪ぎの刃をくぐり抜け、俺は、俺が出来うる限りの超高速で、開け放たれた、禁断の扉へと向かっていった。
あと、少しだ……ッ!
だが、神とはかくも無慈悲なものなのか。跳躍した俺の靴先が板目の端に引っ掛かり、あろうことか、俺はバランスを崩してつんのめる。
倒れた先は、備蓄用の水が溢れんばかりに張られた大樽。誰だ、蓋を閉め忘れたのは!
眼鏡は、眼鏡だけは……ッ!
水没を恐れて眼鏡のつるに両手がかかったその瞬間、俺は、自分のその行動が愚かであった事を思い知った。
両手で眼鏡を持ったら、どこで樽を抑えるんだよ……って話。
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