第5章 【破滅の剣】

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だが。 やはり、何も起こらない。 当然だ。 普通、魔法を唱えるときは詠唱が必要になってくるんだから。 そもそも掌から薬草がポンポン出てくるのなら、薬草屋は要らないわけで。 「それ以前に、「いでよ薬草」じゃ、ちょっと難しいぞ……」 その時、僅かだが風が吹いてきた。 風と共に、金色に光る何かが現れ、音もなく俺の傷口の上に乗る。 一葉の、光る葉っぱだった。 「……チェル、」 チェルシーを見ようと顔をあげ、俺は、その葉が1枚だけではないことに気づく。 チェルシーの肩や、シェンの腕、とにかく、先程まで負傷していた全ての箇所に、その葉がくっついている。 「君の本来の回復魔法か」 シェンが呟いた。 間違いない。これはチェルシーが発動させた魔法だ。 やがて、光る葉は空気に溶けるように消えた。 俺達が受けた傷は、完全に治癒していた。 パンパサーペントから受けた擦り傷も、ブラッディ・イーグルから受けた羽根の刺傷も、どこにもない。 「やった……やったぁ!」 チェルシーがこんなに嬉しそうに笑うのを見るのは、初めてかもしれない。 「良かったね」 俺が言うと、チェルシーはにっこりしながら俺にピースサインを突きつけてきた。 正直、あり得ない。 詠唱も無しに。しかも、今のはチェルシーが魔法を「自分で作り出した」ように見えた。 普通ならば、誰かが苦労して生み出した魔法を、詠唱という媒介を通して呼び込むのが本来の魔法というものだ。 たった14歳の女の子が、思い付きでポンポン出せるものじゃない。 けれど、 「これからも回復は任せてねっ!」 こうして、にこにこと嬉しそうにしている姿を見ると、何も言えなくなってしまう。
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