14人が本棚に入れています
本棚に追加
だが。
やはり、何も起こらない。
当然だ。
普通、魔法を唱えるときは詠唱が必要になってくるんだから。
そもそも掌から薬草がポンポン出てくるのなら、薬草屋は要らないわけで。
「それ以前に、「いでよ薬草」じゃ、ちょっと難しいぞ……」
その時、僅かだが風が吹いてきた。
風と共に、金色に光る何かが現れ、音もなく俺の傷口の上に乗る。
一葉の、光る葉っぱだった。
「……チェル、」
チェルシーを見ようと顔をあげ、俺は、その葉が1枚だけではないことに気づく。
チェルシーの肩や、シェンの腕、とにかく、先程まで負傷していた全ての箇所に、その葉がくっついている。
「君の本来の回復魔法か」
シェンが呟いた。
間違いない。これはチェルシーが発動させた魔法だ。
やがて、光る葉は空気に溶けるように消えた。
俺達が受けた傷は、完全に治癒していた。
パンパサーペントから受けた擦り傷も、ブラッディ・イーグルから受けた羽根の刺傷も、どこにもない。
「やった……やったぁ!」
チェルシーがこんなに嬉しそうに笑うのを見るのは、初めてかもしれない。
「良かったね」
俺が言うと、チェルシーはにっこりしながら俺にピースサインを突きつけてきた。
正直、あり得ない。
詠唱も無しに。しかも、今のはチェルシーが魔法を「自分で作り出した」ように見えた。
普通ならば、誰かが苦労して生み出した魔法を、詠唱という媒介を通して呼び込むのが本来の魔法というものだ。
たった14歳の女の子が、思い付きでポンポン出せるものじゃない。
けれど、
「これからも回復は任せてねっ!」
こうして、にこにこと嬉しそうにしている姿を見ると、何も言えなくなってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!