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「……あれ?……フォー……」
チェルシーが、不意に立ち上がった。
岩壁から見える波間、その手前を指す。
絶壁の陰に見え隠れするようにして、それは、突然姿を現した。
黒っぽくてぬめぬめした三角の頭、沢山の吸盤が蠢く手足。
その巨体は、さっきまで俺達が乗っていた客船の船体を優に包み込んでしまえるほど。
この辺りの海域では滅多に姿を現さないイカの魔物、クラーケンキングだ。
幸運なことに、まだ、魔物の目は俺達を捉えていない。
「チェル、離れよう!」
俺はチェルシーの手を引いて、その場から逃げようとした。
だが…………。
「逃げたら発電所が壊されちゃうよ!」
チェルシーが、それを制止した。
「戦うのは無理だ、この前戦った奴よりも強いんだぞ」
もう一度手を引くが、チェルシーはてこでもここを動かない気だ。
「でも、やるしかないよ」
「君が死んだらエクが悲しむ!」
「結界が張れなかったら、みんな殺されちゃうかもしれないんだよ!」
「…………ッ……!」
チェルシーの手を握りしめたまま、俺はチェルシーから目を逸らした。
勝てるわけがない。
見ろ、こうして言い争っている間に、他の魔物も集まってきたじゃないか。
退路も既に断たれてしまった。
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