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頭から大樽に突っ込んだその横の扉から、あの歌声が聞こえてきた。
水の張られた樽越しだというのに、とてつもない破壊力だ。
「だっからは~、このうたごヱを、ヨホー!♪あ、フォーこんな所で何やってんの?」
俺の尻に話しかけるのは止めてくれ。
俺は樽からどうにか抜け出すと、結局水没してしまった眼鏡のレンズを拭った。ポケットにハンカチを入れておいて助かった。
俺の奇行に驚いた我らの王妃エクートは、例の歌を止めて俺の顔を凝視していた。結果オーライ。
「……って、あー!フォーが邪魔するから、ボクの歌唱術が出る前に戦闘終わっちゃったじゃん!」
エクは、家から持ってきていた小型のハープをジャカジャカならぬボロボロンと掻き鳴らした。そもそもハープっていうのは、ギターみたいに弾いたらダメだろうが。
「ねぇフォー、君は闘わないの?」
侮蔑の視線を向けるのだけはやめてくれ。
お前のソレも戦闘と言えるかは分からないが、とりあえずこのメンバー最強の殺戮兵器だとは言えるだろう。
だから、頼む。
また元のお前に戻ってくれ。
ナックル装備でへっぽこパンチを繰り出すお前に戻ってくれ。
「俺はいいんだよ。デックもチェルシーも、それにお前もいるからね」
口が心にもない言葉を喋っている。
ほら見ろ、エクの満足そうな顔を。
あれはもうしばらくハープを離さないつもりだぞ。
勝手に取り上げたら、オモチャを取られたガキのように泣くに違いない。そもそもガキだからな。
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