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「デぇックー!ボクの歌唱術どうだったー?!」
エクが、フォアマスト付近にいるデックに向かって叫んでいる。
そもそも歌唱術と言っても、味方に対するサポートか、敵に対する妨害かで発動条件が大きく違ってくる。
さっきの歌……のようなものは、どちらかといえば敵味方関係なく混乱させる効果を持つもののようだったが。
「響きましたよ。ありがとうございます!」
それ、単なる感想だよ。自分の胸をトントン叩いているが、一体何に効いたんだ。
デック……相変わらず優しいなあ。
毎回こいつの歌謡ショーに付き合わせてしまって、本当にすまない。
「エク、フォー、怪我してない?」
デックの治療を終えたチェルシーがやってきた。俺はこいつの歌のせいで、毎回心に深い傷を負ってるよ。
「ボクたちは大丈夫だよ、それよりチェルシー、君のほうこそ無理しないでね」
「ありがとう。海の魔物はあんまり強くないみたいだから、今のところは平気だよ」
チェルシーは辺りを見渡して言った。
確かに俺が想像していたよりは、魔物はあまり襲撃してこなかった。
遠足か何かと勘違いしているあのちっさい少年が「ボクたちがこの船の平穏を守るよ!」と鼻息荒く船長に宣言したときは一体どうなることかと思ったが、どうにかやれそうだ。
初めての航海で船酔いを心配していたが、チェルシーの顔には、それとは違った困惑の表情が浮かんでいる。
「浮かない顔だけど、初めて見る海は君の予想とは違ったかな」
「フォー……ううん。ただ、港で見た時とは、随分海の色が違うから」
「綺麗な青い海は、あの町だけの特徴なんだよ」
俺の代わりにエクが口を挟んでくる。
どうやらこいつは、旅の初心者に色々と教えてやりたいらしいな。
「ランドレイクは、ご存じの通り、保養地として有名ですが、その原因は、なんと、あの青さにあったのです!」
『ポロ~ン……』
ジャジャーンとやりたかったようだが、残念ながらそのハープでは哀愁を誘うだけだぞ。
「あの町の周辺では、傷を癒す不思議な鉱石が採れるんだ。
その青い鉱石が海底にも沈んでるから、あの辺の海は空と同じ色に見えるんだよ」
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